2017 Fiscal Year Research-status Report
自然免疫とグルココルチコイドホルモン代謝酵素による新たな生体防御機構の解明
Project/Area Number |
16K09792
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋 秀二 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 客員研究員 (50737872)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グルココルチコイドホルモン代謝酵素 / 自然免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、インフルエンザウイルス(Flu)などのRNAウイルス感染時に作動する自然免疫RIG-Iと細胞内グルココルチコイドホルモン(GC)による生体防御機構の解明である。我々は、自然免疫RIG-Iの活性化時に、細胞内GC代謝酵素である11b-HSD1が発現誘導される知見を得ている。研究開始当初より、細胞内GCおよび11b-HSD1の生体防御における生理的役割を調べている。自然免疫RIG-I活性時には、インターフェロンβ(IFNβ)などのサイトカインが産生され、生体防御に必要なシグナルが伝達される。サイトカインは、視床下部-下垂体-副腎軸(HPA)を介して、GC産生を促す。GCは細胞内に移行し、GC受容体(GR)を介して、サイトカイン産生を抑制する。一般的には、GCはHPA軸を使った大きなフィードバックループを介して炎症を制御していると考えられている。しかし我々は、HPAに依存しない11b-HSD1による細胞内フィードバックループを発見した。さらにRIG-I活性化時には、GRのリガンド非依存的にRIG-Iシグナルを制御している知見を得ている。これらの結果は、新たな細胞内炎症制御機構であり、今後さらに詳細なメカニズムの解明を進める予定である。また自然免疫RIG-Iが活性化すると、GRの核内移行が抑制され、GC抵抗性の状態となる。このGC抵抗性が生体防御に与える影響と生理的意義についても検討をすすめる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、研究当初予想していた以下のような結果を得ている。Flu感染時には、サイトカインがHPA軸を刺激し、GCを産生する。分泌されたGCは、末梢組織で炎症制御に働くと考えられている。末梢組織では、細胞内GC代謝酵素11b-HSD1によりGC濃度が調節されている。11b-HSD1は、不活型GCのコルチゾンを活性型GCのコルチゾールへ変換する。11b-HSD1の上昇は、細胞内GC作用の増強を促す。本研究では、Flu感染時に自然免疫RIG-Iが活性化し、11b-HSD1の発現が誘導された。 自然免疫RIG-Iの活性化すると、生体防御に必要なIFNβが産生される。しかしIFNβ等のサイトカイン過剰産生は、組織傷害の原因となる。本研究では、活性型GCのコルチゾールだけでなく、不活型GCのコルチゾンも、IFNβの発現誘導を抑制した。この結果は、誘導された11b-HSD1によりコルチゾンが活性型のコルチゾールに変換され、GRを介して炎症を制御していることを示している。興味深いことに、GILZなどのGC誘導遺伝子の発現は、コルチゾンで誘導されなかった。つまりRIG-Iで誘導された11b-HSD1は、コルチゾンをコルチゾールに変換し、選択的にRIG-Iシグナルをネガティブフィードバック制御していると考えられた。siRNAを用いて、11b-HSD1をノックアウトすると、このコルチゾンによるIFNβ抑制効果は消失することを確認した。RIG-Iシグナルの活性化は、11b-HSD1だけでなくGRの発現も誘導する。RIG-Iシグナル活性化時に、GR阻害剤のRU486を投与すると、IFNβの発現が上昇することを見出した。これは、GRが既知のリガンド非依存的にRIG-Iシグナルを制御している事を示しており、さらなる検討を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次の2点に着目して検討を進める。①GRのRIG-Iシグナルへの制御機構の解明。②自然免疫RIG-I作動時のGC誘導遺伝子発現低下の意義について。 ①siRNAを用いて、GRノックアウト状態でのRIG-Iシグナルへの影響を調べる。siRNAだけでなく、GR特異的な阻害剤を用いて、RU486と同様の結果を得られるか調べる。さらにノックアウト実験だけでなく、GR過剰発現ベクターを用いて、RIG-Iシグナルへの抑制制御を確認する。RIG-I活性化時には、GRの核内移行が抑制されている事が予想される。蛍光タンパク質を用いた標識実験を行い、RIG-I活性化時のGRの細胞内局在と、GC投与による影響を調べる。GRはRIG-Iシグナル下流のIRF3等にリクルートされる事が予測されるため、免疫沈降法を用いて標的タンパク質を同定する。 ②GCは、重症Flu感染症のサイトカインストームに対する重要な治療薬である。しかし臨床的にはGC抵抗性の病態が存在し、問題となっている。本研究で得られる結果は、その原因解明に寄与すると思われる。GILZは、抗炎症作用や制御性T細胞の誘導など生体防御に関与する因子である。GCは、急性感染症時に分泌される必須のホルモンであり、GILZ以外にも重要な因子の存在が予想される。本研究では、RIG-I作動時の新たなGC誘導因子の探索と、生体防御に与える影響を調べる。Flu感染モデルを用いて、GCによるウイルス感染量および組織傷害に与える影響を用いて検討する。RIG-Iノックアウトモデルを用いて、RIG-IとGCシグナルの関連性を調べる。
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