Outline of Annual Research Achievements |
プリオン蛋白質(PrP)は細胞表面に局在する糖蛋白質であり, 全身で発現し, 特に中枢神経系でその発現は高い。脳ではPrPは神経細胞の保護に関与するとの報告があるが, 他の組織におけるPrPの機能は不明である。 我々は, PrPが脳組織に次いで肺で高く発現していることを見出した。また,抗PrP抗体による免疫染色から, PrPはI型及びII型肺胞上皮細胞とクララ細胞で発現していることが分かった。そこで, 肺でのPrPの機能を解析するために, PrP遺伝子欠損(Prnp0/0)マウスにインフルエンザAウイルス(IAV)を鼻腔に感染させた。その結果, Prnp0/0マウスはIAVに高感受性を示し, 高い致死率を示した。逆に, PrP過剰発現マウスはIAV感染に対して抵抗性を示した。これらの結果は, 肺で発現するPrPがIAV感染に対して防御的に機能することを示す。次に, PrPの機能領域を解明するため, 銅イオン結合領域であるオクタペプチドリピート(OR)領域を欠損したPrPを発現するTgPrPdelOR/Prnp0/0マウスにIAVを感染させた。その結果, TgPrPdelOR/Prnp0/0マウスはPrnp0/0と同等の致死率を呈した。この結果は, OR領域がPrPの抗IAV活性に重要な領域であることを示した。OR領域は銅イオンと結合し, 銅依存的抗酸化酵素SOD1の酵素活性を調節することが報告されている。そこで, 肺の銅イオン量を定量した結果, 野生型マウスと比べてTgPrPdelOR/Prnp0/0マウスでは肺の銅イオン含有量が低下しており, SOD1酵素活性も低下していた。 以上の結果は, PrPが肺内の銅イオンを保持することでSOD1の酵素活性を調節し, その結果IAV 感染により産生される活性酸素を不活化し, 抗IAV活性を発揮している可能性を示した。
|