2017 Fiscal Year Research-status Report
精神疾患の特徴的脳変化と関連する脳脊髄液中蛋白の同定
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16K10234
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
太田 深秀 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第三部, 客員研究員 (00582785)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大うつ病性障害 / MRI |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の拡散強調画像では分子拡散の遷移確率密度分布を正規分布と仮定して得られたmean diffusivity (MD)や水分子の動きをテンソルとして表示するfractional anisotropy (FA)が主な指標として使用されてきた。しかし拡散強調画像が元来有する豊富な生体情報をまだ十分に生かしきれているとはいえない。近年、非正規分布に従う遷移確率密度分布用いた解析方法が生体組織の微細構造による制限拡散を強く反映するものとして注目されている。拡散MRI(dMRI)のうち拡散尖度画像(diffusional kurtosis imaging; DKI)では空間方向の平均値としてmean kurtosis (MK)という指標が用いられており、これはMDやFAと比較して微細構造変化を鋭敏に捉えることが可能であると考えられている。一方、FAやMKの変化は非特異的であり、この変化は神経突起密度の変化なのか神経突起散乱の変化なのかはわからなかった。そこで拡散MRIで得られた元画像から神経突起密度や神経突起散乱を算出する再構成法、Neurite Orientation Dispersion and Density Imaging (NODDI)が開発された。今年度はこのDKIとNODDIの撮影および解析法を用いて精神疾患の一つである大うつ病性障害における局所脳形態変化を明らかにした。今後、この新規検査法を精神疾患に用いることで、これまで明らかにできなかった微細な構造変化を見つけることが可能となるものと期待される。 また精神疾患モデルマウスを用いた研究では、lipopolysaccharide (LPS)の投与による大うつ病性障害モデルラットを対象に [11C]PK11195を用いた検査を行い、うつ病モデル化前後での脳内炎症の差異をPETにより明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年、拡散尖度画像(DKI) と、神経突起密度(NDI)や神経突起方向散乱・密度イメージング(NODDI)が生体組織の微細構造変化を鋭敏に捉えうるとして注目されている。今回我々はDKIやNODDIを用いて大うつ病性障害患者における疾患特異的、および臨床症状と関連した局所脳構造の変化について検討を行った。大うつ病制障害患者23名と精神神経科既往歴のない健常被験者26名を対象にMRIを撮影した。結果、健常者と比較して大うつ病性障害患者群は、MK value による解析ではMDD群で上縦束、下前頭後頭束部分の低下を認めた。NDI valueではMDDで小脳半球、中小脳脚、海馬、両側島、下前頭前野、右上側頭回の低下を認めた。ODI valueではMDDにおける左後頭葉皮質下白質、両側上縦束、左下前頭後頭束の上昇を認めた。なお臨床症状との相関に関してはHAM-D 21の点数と右前頭前野との有意な正の相関を認めた。 MDD患者群では上縦束領域や後前頭後頭束領域における変化が確認されており、過去のDTIを用いた報告に合致した結果であった。その他、前頭葉や頭頂葉皮質領域、島、小脳などの変化が認められた。MDD患者群ではMDDの重症度と前頭葉部分のODIとの間に正の相関を認めた。これまでに、経頭蓋磁気刺激装置(TMS)による前頭葉部分の刺激によりMDDの改善効果が得られることが既に知られており、今回の結果はこの点に矛盾のないものであった。以上の点より、今後精神疾患の鑑別や症状評価へDKI, NODDIが応用されることが期待される。 また精神疾患モデルマウスを用いた研究では、lipopolysaccharide (LPS)の投与による大うつ病性障害モデルラットを対象に [11C]PK11195を用いた検査を行い、うつ病モデル化前後での脳内炎症の差異をPETにより明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度には拡散尖度画像(diffusional kurtosis imaging; DKI)やNeurite Orientation Dispersion and Density Imaging (NODDI)といった大脳の微細構造変化を用いて大うつ病性障害の局所脳形態変化を明らかにした。平成28年、29年度にかけて行なってきた、拡散尖度画像と神経突起方向散乱・密度イメージングによる定量解析が可能な環境が整ったことをうけ、平成30年度からは統合失調症や双極性障害といった精神疾患を対象に検討を行い、疾患特異的な変化やその重症度と関連しうる脳領域の発見などを行い、疾患に関する知見を集積していく。また局所解剖的な変化の検討だけではなく、graphical 解析法などを用いたfunctional connectivity analysisも並列して行い、局所的な形態変化による機能的変化についても解析を行う。臨床症状と脳のconnectivityとの関連があきらかになれば、これまでに集積された精神疾患に特徴的な局所脳形態変化の統合的な理解がさらに深まり、疾病理解につながるものと期待される。あわせて行っている脳関髄液検査より脳脊髄液蛋白バイオマーカーとして有効と思われるタンパク、具体的には神経伸長やシナプス可塑性に深く関わるグリコシルホスファチジルイノシトールやL1、リン脂質構成に関わるエタノールアミンなどに注目し、脳脊髄液中の蛋白濃度と、MRIを用いた画像情報から得られる大脳皮質容量や神経線維束の微細構造、脳実質内のグルタミン酸などの代謝物濃度、局所脳血流量との関連を検討する。
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Causes of Carryover |
被験者リクルートが一時滞り謝金及び人件費にかかる費用が予定を下回った。今後は不足分の被験者リクルートを積極的に行い計画にあわせた被験者数を目指す。
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Research Products
(2 results)