転移再発乳癌の薬剤耐性遺伝子変異を効果予測因子とする最適な治療戦略の研究

2017 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K10485
• Research Institution: Hyogo Medical University
• Principal Investigator: 荒木 和浩 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (80406470)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2019-03-31
• Keywords: HER2陽性乳癌 / 腫瘍免疫 / 宿主全身状態 / 末梢血リンパ球 / サイトカイン

Outline of Annual Research Achievements

本研究の目的はHER2陽性乳癌に対する治療である抗HER2薬を含む薬剤の耐性遺伝子を検索することであった。前年度は凍結した腫瘍組織からのRNA抽出方法を確立し、当院のデータベースより手術例1277例からHER2陽性乳癌164例を抽出した。しかしながら、その間にHER2に関連する遺伝子変異が報告され、その頻度は1-3％であり、HER2遺伝子の増幅されている症例では遺伝子変異がほとんどないことが明らかにされた。予定症例ではHER2遺伝子変異の頻度が5人未満と予測され、臨床情報による薬剤耐性との関連を検討することが困難と判断した。抗HER2薬の効果との関連を検討するために、その他の要因を検討することに研究計画を変更した。研究代表者の前所属先と現所属先での抗HER2薬+抗癌薬併用の第Ⅱ相臨床試験を実施したHER2陽性進行再発乳癌の51例を対象として後方視的に治療開始前の臨床データと無増悪生存期間との関連性を検討した。その結果、末梢血リンパ球数が無増悪生存期間（PFS）に影響を及ぼす可能性が示唆され、2017年12月の米国テキサス州サンアントニオ乳癌シンポジウムに報告した。この結果を検証する目的で当院の手術症例に再注目したが、PFSではイベント数が少なく効果の指標と為らないため、病理学的奏効（pCR）を効果の指標とした。術前化学療法症例を対象とすると全手術症例1572例中の227例が該当した。その中でHER2陽性症例は69例であり、その内でも血清サンプルが残存している61症例を対象とした。HER2のみ陽性は26症例であり、ホルモン受容体も発現しているものは35症例であった。pCRは33症例に認め、治療開始前の臨床病理学的因子との相関を検討した。エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、細胞増殖の指標となるKi67のいずれものタンパク発現はpCRと統計学的に有意な相関を示していた。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

研究代表者の異動に伴い実施施設の変更があり開始が遅延した。既報論文を再検討し、予備的研究を行った。その成果を検証するために、研究目的の再考と研究対象の2度にわたる変更を行ったために進捗状況はやや遅れている。研究実績概要を基に再考した研究目的はHER2陽性早期乳癌での病理学的寛解（pCR）を予測する抗HER2薬の効果予測因子を宿主側の因子から探索することである。対象は61例の術前化学療法をおこなったHER2陽性早期乳癌である。pCRと腫瘍側の因子であるエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体とKi67のタンパク発現は統計学的に有意な相関を認めたが、HER2発現との相関はなかった。宿主側の因子である末梢血液パラメーターは以下のものを検討した。白血球、好中球、リンパ球、血小板、好中球リンパ球比（NLR）、血小板リンパ球比（PLR）の6つであり、全身の炎症と宿主の免疫状態に関連する因子である。これら6因子はpCRを予測する因子にはなりえず、いずれも統計学的に有意な相関がなかったが、白血球、好中球、血小板、NLR、PLRの値が低く、リンパ球の値が高いほうがpCR率の高い傾向にあった。HER2陽性転移再発乳癌での抗HER2薬の検討では無増悪生存期間（PFS）を予測する際に末梢血リンパ球数が指標となりうる可能性が示唆されたが、HER2陽性早期乳癌での抗HER2薬ではpCRの予測因子としての末梢血パラメーターのいずれもが統計学的には有意でなかった。その理由としては対象症例の病状進行度が異なることのみならず有効性の指標がpCRとPFSという異なる基準であることが考えられた。このように対象とした61例での臨床病理学的因子では限界があるため、凍結血清サンプルを用いて腫瘍免疫を左右する炎症性サイトカインもふくめて網羅的に測定し、pCRとの関連を検討する。

Strategy for Future Research Activity

HER2陽性乳癌のみならず、悪性腫瘍におけるがん化学療法の治療効果予測因子として、腫瘍側の因子のみならず腫瘍周囲の微小環境も重要である。これらを対象とした研究成果によって癌の生物学的特性が明らかになりつつある。この特性を踏まえた絶え間ない薬剤の開発、医療者の情熱と対象者の温かい協力によって臨床研究が推進され、その結果として治療法が進歩し予後の改善が認められている。最近では腫瘍周囲の免疫細胞を活性化する免疫チェックポイント阻害薬の登場や腫瘍浸潤リンパ球の役割が重要となりつつある。HER2陽性乳癌においても抗HER2薬の効果予測のために、腫瘍周囲に浸潤するリンパ球に焦点が当てられ、数多くの報告がなされている。一方、宿主の全身状態を把握する目的での腫瘍免疫の状態の検討、その評価方法の一つとして末梢血液パラメーターを評価したものはまだまだ少ない。研究代表者の研究実績では末梢血液パラメーターが抗HER2薬の効果予測因子としては一定した結果とならず不十分な情報である。そのためリンパ球のみならず白血球などもふくめて末梢血パラメーターを左右する炎症性サイトカインも重要な役割を果たしている可能性が示唆される。この仮説を基に腫瘍免疫に関連するサイトカインを網羅的に測定し、臨床病理学的因子と腫瘍免疫に関連するサイトカインとの関係を明らかにする予定である。その結果により宿主側の腫瘍に呼応する免疫関連のバイオマーカーを予測できる可能性がある。

Causes of Carryover

研究代表者の異動に伴い実施施設の変更があり開始が遅延した。既報論文を再検討し、予備的研究を追加して行った。さらに、その成果を検証するための研究目的の再考および研究対象の2度にわたる変更を行った。それらのために進捗状況はやや遅れており、次年度使用額が発生した。今後もこの研究費を本研究に必要な解析における消耗品などの購入に使用を予定している。

Research Products

• [Presentation] Predictive impact of absolute lymphocyte counts for progression-free survival in HER2-positive advanced breast cancer treated with pertuzumab and trastuzumab plus eribulin or nab-paclitaxel (2017)
  • Author(s): Araki, K. Ito, Y. Fukada, I. Kobayashi, K. Ohno, S. Miyagawa, Y. Imamura, M. Kira, A. Takatsuka, Y. Egawa, C. Suwa, H. Miyoshi, Y.
  • Organizer: 2017 San Antonio Breast Cancer Symposium
  • Int'l Joint Research