2018 Fiscal Year Research-status Report
低侵襲心臓手術治療成績向上に向けた術後炎症反応の病態解明
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16K10636
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
山口 敦司 自治医科大学, 医学部, 教授 (50265287)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382898)
吉崎 隆道 自治医科大学, 医学部, 臨床助教 (20743115)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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Keywords | 低侵襲心臓手術 / 経皮敵大動脈移植術 / 術後炎症反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、前年に引き続き、自治医科大学倫理委員会の承認の元、大動脈狭窄症に対する治療(TAVR/SAVR)を実施した70歳以上の高齢者から、2019年1月までに合計23名の患者検体を採取して(TAVR群:T群N=12・SAVR群:S群N=11例)、低侵襲手術術後の免疫応答に関する研究実験を施行した。 最終的には、対照群(C群)として弁膜疾患のない高齢者6例の検体も採取した後に、術前・術直後・術後24時間の3時相でS群・T群の血漿成分を抽出し、MILLIPLEX cytokine panel(Merck)を使用し、71の サイトカイン・ケモカイン濃度を各時相で測定した。C群平均値でnormalizeしたサイトカイン濃度をS群・T群の2群間で比較し、1.7倍以上のFold差とMann-Whitney U testのP値<0.1の2基準を同時に満たすものを群間格差ありと定義した。global gene expression解析を Subio Platform(Subio Inc)で行い、David Functional Annotation(LHRI)でenrichment解析した。 結果は、全71のうち39サイトカインで術後の1もしくは2時相で群間格差を認め、階層型クラスタリング法で以下4群に分類した。cluster A: S群高度増加・T群増加抑制(8サイトカイン:IL-6, IL-8, IL-10, IL-15, IL-16, IL-28A, IL-1ra, G-CSF)、cluster B: S群軽度増加・T群増加抑制(12サイトカイン:GM-CSF, MCP-1, IL-11, IL-17Aなど)、cluster C: S群軽度増加・T群発現減少(13サイトカイン:CCL1, CCL17, IL-23Aなど)、cluster D:両群とも発現減少、T群でより顕著(6サイトカイン:IL-4, CCL11, XCL1など)。Pathway解析ではJAK-STAT signaling pathwayなどの関与が示唆された。 本研究成果は2019年度第72回日本胸部外科学会で発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在、当施設では、心臓手術リスクの少ない症例に対しては、通常の外科的大動脈弁置換手術を第一選択として実施しているが、80歳以上の高齢者や全身状態が不良な症例では、TAVR手術を積極的に実施している。手術手技及び周術期管理の改善や、次世代人工弁の出現によりTAVR手術の治療成績はさらに向上し、手術実施件数はここ数年で急激に上昇しているのが現状である。 本研究は、最終的な患者検体の採取が2019年1月に終了した。当初の研究計画に比べて、患者検体採取に遅滞が生じた結果となったが、その理由はいくつかの点が挙げられる。まず、高齢者に対する通常の大動脈弁置換術(SAVR)を実施する頻度が急激に減少したため、SAVR群が突出して患者検体採取数が少なかった(最終的には11例採取)。また、本研究は、無輸血症例を対象にしているため、周術期に輸血療法が実施された症例は研究対象から除外したが、この点も実験開始の遅れに影響を及ぼした。 本研究の主体であるMILLIPLEX cytokine panelを使用した網羅的サイトカイン発現解析実験とその後のバイオインフォマティクス解析は既に終了しており、今後は対象症例以外の患者データの抽出及び解析と、遺伝子発現解析結果に対するvalidation RT-PCR(micro RNA)を2019年5月中に行う予定である。最終的には2019年中の論文化を目指す方針である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主体であるMILLIPLEX cytokine panelを使用した網羅的サイトカイン発現解析実験とその後のバイオインフォマティクス解析は既に終了しており、今後は対象症例以外の患者データの抽出及び解析と、遺伝子発現解析結果に対するvalidation RT-PCR(micro RNA)を2019年5月中に行う予定である。 具体的には、今回のTAVR症例とSAVR症例のサイトカイン研究は、合計23症例の比較的小規模な患者群での比較研究であるため、これら23症例も含めて過去の当センターの弁膜疾患研究データベースから、TAVR群N=120-150例程度・SAVR群120-150例程度の患者データを抽出して、術後の炎症反応(白血球数)の2群間比較を行い、TAVRの術後炎症反応の抑制の程度を調査する。また、validation RT-PCRに関しては、Pathway解析から既にTAVRが抑制しうる炎症cascadeに関連した候補micro RNAを選定しているため、これらの候補micro RNAを中心にしたRT-PCRをSYBR green法で実施する予定である。 血管内皮細胞株に壁せん断応力を負荷する実験モデルを使用したin vitro研究の実施も今後検討している。最終的には2019年中の論文化を目指す方針である。
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Causes of Carryover |
(理由) 本研究は、基盤研究Cに2016年10月中旬に繰り越し採用となった経緯がある。本研究における最終的な患者検体の採取が2019年1月に終了した。当初の研究計画に比べて、患者検体採取に遅滞が生じた結果となったが、その理由はいくつかの点が挙げられる。まず、高齢者に対する通常の大動脈弁置換術(SAVR)を実施する頻度が急激に減少したため、SAVR群が突出して患者検体採取数が少なかった(最終的には11例採取)。また、本研究は、無輸血症例を対象にしているため、周術期に輸血療法が実施された症例は研究対象から除外したが、この点も実験開始の遅れに影響を及ぼした。これらの理由から、本研究の主体であるMILLIPLEX cytokine panelを使用した網羅的サイトカイン発現解析実験とその後のバイオインフォマティクス解析は既に終了したが、validation RT-PCR実験は終了できず、次年度使用額が発生した。
(使用計画)5~6の候補micro RNAを対象として、SYBR green法によるRT-PCR実験を2019年度5月に実施する。RNA抽出やcDNA合成のための消耗品の購入に、研究繰越金を使用する予定である。また、作成した論文の英文校正費用も研究繰越金から捻出する予定である。
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