2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K10806
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松井 雄一郎 北海道大学, 大学病院, 助教 (20374374)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
船越 忠直 北海道大学, 大学病院, 講師 (10528334)
今 重之 福山大学, 薬学部, 教授 (90344499)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | デュピュイトラン拘縮 / Nodule / TGF-β1 / インテグリンαv / インテグリンα8 |
Outline of Annual Research Achievements |
デュピュイトラン拘縮は、初期には手掌腱膜にnoduleが出現し、進行するとcordが形成され、徐々に指の屈曲拘縮を来すことが知られている。その増悪化のメカニズムは、形態学的には、筋線維芽細胞が大きく関わっており、transforming growth factor (TGF) -β1が関与し、手掌腱膜に線維化が進行することが指摘されている。一方、他の繊維化疾患では、細胞接着分子であるインテグリンの関与が報告されている。先行研究では、デュピュイトラン拘縮の手掌腱膜組織において、TGF-β1やインテグリンαv及びα8の発現が上昇することを確認したが、細胞レベルの十分な検討がなされておらず、その発生機序の詳細はいまだ不明であった。そこで、デュピュイトラン拘縮患者で手術(部分腱膜切除術)を施行した際に、治療標的部位を明らかにするためnoduleとcordに分けて採取した。対照群は特発性手根管症候群患者で、手根管開放術の際に摘出した正常腱膜を用いた。免疫組織化学的検討やリアルタイムPCRなどによるmRNAレベルの発現解析では、TGF-β1、N-cadherin、インテグリンαv及びα8が正常組織と比較しnoduleで発現上昇していることを確認した。インテグリンα4、β6、β8では有意差は認めなかった。 以上の結果から、線維化の治療標的部位はcordではなくnoduleであること、治療のターゲット分子はインテグリンαv及びα8であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象群は、デュピュイトラン拘縮にて部分手掌腱膜切除を施行した8例8手で、全例男性、平均年齢は72歳。コントロール群は特発性手根管症候群の8例8手で、男性2例、女性6例、平均年齢は67歳、手根管開放術の際に摘出した手掌腱膜を用いた。HE染色による組織学的検討及びα-smooth muscle actin (α-SMA)による免疫組織化学的検討を行った。また、real-time PCRにてTGF-β1、E-cadherin、N-cadherin、インテグリンα4、α8、α9、αv、β6、β8のmRNA発現を評価した。さらに、それぞれの組織から線維芽細胞を単離・培養し、フローサイトメトリーにより、細胞表面上の種々のインテグリン発現を確認し、ELISA法により培養上清中の分泌型TGF-β1の発現を測定した。 その結果、HE染色においてnoduleでは、細胞密度の高い線維芽細胞を認めた。一方cordや正常腱膜では、線維芽細胞は散在していた。免疫組織化学的検討においてデュピュイトラン拘縮の腱膜では、noduleで特にα-SMA陽性細胞を認めたが、正常腱膜ではα-SMA陽性細胞を認めなかった。Real-time PCRでは、病的腱膜特にnoduleでは正常腱膜に比較しTGF-β1、インテグリンαv及びα8が有意に発現上昇を認めた。インテグリンα4、α9、β6、β8ではnoduleでの発現上昇は認めなかった。また、nodule由来の線維芽細胞培養上清中からはフローサイトメトリーにて分泌型TGF-β1を検出した。 以上から、デュピュイトラン拘縮の病態には特にインテグリンαv及びα8が深く関与し、その発現上昇によりTGF-β1が活性化され線維化を促進する可能性が示唆されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下2点の方向から研究を進めることで、デュピュイトラン拘縮における線維化メカニズムと線維制御機構を解明することが可能と考える。
①インテグリンαvとα8に対する抗体によるTGF-β1活性化に与える影響について、ELISAを用いる方法とルシフェラーゼ活性を利用した方法の2つのツールを利用し、効率的な検討を行う。さらに、本研究の発展としてインテグリンαvとα8に対する抗体による線維化マーカー分子の発現抑制効果を、リアルタイムPCR、ウエスタンブロット、蛍光細胞染色により明らかにする。
②デュピュイトラン拘縮は、原因遺伝子の同定に関する研究報告がまだ少ないが、最近、デュピュイトラン拘縮の疾患関連遺伝子の同定を全ゲノム関連解析で検討し、関連遺伝子は9つの遺伝子座に見られ、このうち6つの遺伝子座(WNT4、SFRP4、WNT2、RSPO2、SULF1、WNT7B)が、Wntシグナル伝達経路の蛋白をコードする遺伝子が存在するとの報告があった (N Engl J Med, 365, 307-317, 2011)。さらにTGF-βを介した線維化に、Wntシグナルの活性化が必要との報告もあり(Nat Commun, 13, 735, 2011)、これらの報告は、我々のこれまでの結果を支持するものである。そこで、デュピュイトラン拘縮のさらなる原因解明に向け、血液及び唾液からSNP(single nucleotide polymorphism:一塩基多型)を解析し、原因遺伝子を特定する。
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