2016 Fiscal Year Research-status Report
椎間板変性機序の解明に基づく新たな治療戦略の開発研究
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16K10843
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Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
千葉 一裕 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 病院 整形外科, 教授 (80179952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細金 直文 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 病院 整形外科, 講師 (10365306)
今林 英明 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 整形外科学, 講師 (40296629)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 椎間板 / 椎間板ヘルニア / 椎間板変性 / 一塩基多型 / 全ゲノム解析 / 腰痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
椎間板ヘルニア発症に寄与するさらなる疾患感受性遺伝子を同定する目的でアレル出現頻度minor allele frequency (MAF)10%以下の比較的頻度が低い遺伝子まで網羅する範囲を拡げ、単塩基多型(Single nucleotide polymorphism:以下SNP)用いた全ゲノム解析を実施した。 1次スクリーニングとして患者群は(1)MRIによる椎間板ヘルニアの診断(2)整形外科医による一年間以上の治療(3)三か月以上持続する背部から放散する片側下肢痛を診断基準として集められた374例、対照群は無症候性健常者940例、解析するSNPは遺伝統計学的手技により全ゲノムを網羅する515286 SNPを選択した。これらのうち実験における信憑性の基準をサンプルに対してはcall rate ≧ 0.98、SNPに対しては(1) Chr.1-22 (2) call rate ≧ 0.99 (3) HWE-P ≧10×10 -6と設定した。これらを満たす患者群373例、対照群934例、基準を満たしかつMAF10%未満である145,766 SNPを解析した。各SNPの相関はアレル、優性、劣性の3モデルに対しχ2検定を行い、最も有意なものを検討した。統計学的有意水準はBonferroni補正を用い、P<5×10 -8とした。 今回解析を行ったSNPの中で椎間板ヘルニアと最も相関が高かった6 SNPのうちrs1112964 、rs12385796、rs3846977、rs7040239の4 SNPは遺伝子領域内あるいは遺伝子近傍に存在した。しかし、3つのモデル全てにおいて有意水準を超える相関を示すSNPは存在しなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
われわれの今までの遺伝子解析研究から椎間板ヘルニアや椎間板変性との相関が明らかとなったCILP、COL11A1、THBS2、MMP9、SKT、CHST3などの疾患感受性遺伝子はいずれもアレル出現頻度minor allele frequency (MAF)>10%と出現頻度が高いものであったが、今回さらなる疾患感受性遺伝子を同定する目的で、平成28年度の計画に従いMAFが10%以下と比較的出現頻度が低い単一塩基多形SNPまでに解析範囲を拡げて全ゲノム解析を実施した。 その結果、椎間板ヘルニアと相関の強い6つの新たなSNPが発見された。一方で残念ながらこれらのうち統計学的有意水準に達するSNPは無かった。通常頻度の低いSNPに対する解析はその結果の不安定性から無条件に除外されることが多い。頻度の低いSNPはその性質上多型の中でもより変異に近い。そのため、その中に疾患に関与しているSNPが存在している可能性は高い。有意なSNPの検出は困難である場合が多いが、今後も研究する価値のある領域であると考える。
また、平成28年度中に講座研究室の改装・整備が完了する予定であったが、工事の着工が遅れているため未だに研究室が使用できず、分子生物学的、生化学的手法を用いた各種遺伝子や代謝活性因子の機能解析が未だに開始できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
症例数を追加してMAF10%以下のSNPに対する全ゲノム解析(SNP discovery)を進める。一方で、もし統計学的に有意なSNPが見いだせない場合は、従来発見されたCILP、COL11A1、THBS2、MMP9、SKT、CHST3などの疾患感受性遺伝子の情報に対してCASSI Genome-wide interaction analysis software (Newcastle University, Newcastle, UK)を用いて、Joint Effect統計量の算出など最新の統計学的手法を駆使して遺伝子間の相互作用を解析し、椎間板ヘルニアや変性への遺伝素因の影響の解明を進める。 また、講座研究室の改装・整備が完了次第、遺伝子解析を含めた今までの研究によって椎間板ヘルニアや椎間板変性との関与が明らかとなったさまざまなタンパク、増殖因子、基質分解酵素、ホルモンなどが単独あるいは複合して椎間板細胞の増殖、基質代謝に与える直接的影響を生化学的、分子生物学的に解析し、椎間板変性に対する新たな分子標的治療開発へと繋がる知見を得たい。
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Causes of Carryover |
H28年購入したPCによってSNPなど遺伝子データの解析はほぼ予定通り進んだ。一方で、講座研究室の改装・整備工事が計画より遅れており、細胞培養、プラスミドやベクターによる遺伝子導入、PCR、NorthernやWestern Blottingといた分子生物学的、生化学的に必要な器材、材料、実験動物などの購入ができていない。H29年前半には工事が完成する予定のため、早々に必要物品・器材を購入の上、上記実験を開始したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度未使用だった約150万円とH29年度交付予定の120万円を合わせた270万円のうち、旅費・人件費を除いた180万円は実験動物、DNAチップ、遺伝子プローブ、抗体など実験に必要な物品購入に早々に使用する。また、旅費(欧州脊椎学会への参加)・人件費(データ入力を中心とした研究協力者への謝金)も計画に沿って支出する予定である。
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