2017 Fiscal Year Research-status Report
椎間板変性機序の解明に基づく新たな治療戦略の開発研究
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16K10843
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Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
千葉 一裕 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 病院 整形外科, 教授 (80179952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細金 直文 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 病院 整形外科, 講師 (10365306)
今林 英明 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 整形外科学, 講師 (40296629)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 椎間板 / 椎間板ヘルニア / 椎間板変性 / 全ゲノム解析 / 一塩基多型 / 腰痛 / 酸化ストレス / 高気圧酸素療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
椎間板変性やヘルニアの発生と相関するさらなる感受性遺伝子を同定する目的でアレル出現頻度minor allele frequency (MAF)10%以下と比較的発現頻度が低い遺伝子にまで検索範囲を拡げ、単一塩基多型SNP用いた全ゲノム解析を実施した。その結果新たに6つのSNPが発見されたが有意水準を超える相関を示すSNPは存在しなかった。また、今までわれわれが同定したCILP、COL11A1などの疾患感受性遺伝子の相互作用をJoint Effect統計量算出などの統計学的手法によって検証したが、有意な相互作用は見られなかった。一方、こうした疾患感受性遺伝子の機能解析の結果、酸化ストレスシグナルがCILP,THSP2、MMP9などの発現を介して椎間板変性やヘルニアの発生に影響を与える可能性が示唆された。そこで、椎間板変性過程における酸化ストレスの関与を検証する目的でWistar系ラット尾椎椎間板穿刺による椎間板変性モデルを作成し、活性酸素種(reactive oxygen species,以下ROS)のマーカーであるNitrotyrosineで免疫染色を行ったところ、穿刺群では非穿刺対照群と比較し有意に陽性細胞数が増加していた。また、椎間板変性に対する高気圧酸素環境(hyperbaric oxygen、以下HBO)の影響を検証する目的で、穿刺群および対照群に1日2時間10日間、小動物用チャンバーでHBO(100%酸素、2.5絶対気圧)を負荷したところ、暫定的ながら組織学的検討で椎間板変性の進行が抑制されるという結果が得られた。さらにType IIコラーゲンやアグリカンなどの細胞外マトリクス、TNFα、COX-2など炎症性サイトカインのmRNA発現をリアルタイムPCRで定量解析しているが、現時点でHBO群と非介入群の相違を検出するには至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、腰椎椎間板ヘルニアをはじめとするさまざまな腰痛疾患発症の基盤となる椎間板変性に対する新しい治療戦略の確立に寄与する知見を集積することであり、具体的な戦略は以下の2つに集約される。 1)全ゲノム解析により網羅的に疾患感受性遺伝子を探索し、候補遺伝子群の機能解析を進め、椎間板変性過程におけるその役割を解明する。さらに複数の候補遺伝子の椎間板変性に対する相互作用を検討する。 2)発見した遺伝子群によって規定されるタンパク(基質分子、サイトカイン、増殖因子、基質分解酵素、ホルモン、細胞内シグナル)あるいはその関連タンパクの椎間板変性における役割を分析し、椎間板変性機序を解明する。 現時点で1)に関しては、われわれが今までのゲノム解析で発見したCILP、COL11A1、THSP2、MMP9、ASP14、CHST3など個々の候補遺伝子の機能解析は進み、椎間板変性過程におけるその役割が徐々に解明されつつあり、椎間板変性機序の解明の一助となる知見が集まりつつある一方で、新たな感受性遺伝子の発見や複数遺伝子の相互作用に関しては充分な成果を得るまでに至っていない。その一因として疾患サンプルが国内1500例、海外を合わせても3000例と少ないことが考えられる。 一方、2)に関しては動物実験における組織学的検討では椎間板穿刺操作によって髄核の消失を認め、椎間板変性モデルを安定して作成することが可能となった。さらに、椎間板変性群における免疫組織学的検討で酸化ストレスの関与が明らかとなった。また、予備実験段階ではあるが、高気圧酸素(HBO)負荷によって椎間板変性の進行が抑制されるという結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子探索研究に関しては多重比較検定においても明確な有意差が得られるようサンプル数をさらに増やして解析を進める予定であるが、サンプルの収集には一定期間が必要なことから、現有サンプルを用いてminor allele frequency:MAFが5%以下のより発現頻度が低い遺伝子まで解析対象を拡大して全ゲノム解析を実施し、更なる候補遺伝子が発見されるか否かを確認したい。一方で、酸化ストレスの椎間板変性への関与を確認するための再現性のある椎間板変性動物実験モデル確立できた。さらに椎間板変性に対するHBOの治療への応用の可能性を示す結果も得られた。今後のこの椎間板変性モデルを用いて、椎間板変性に対する新たな治療戦略の開発に繋がる知見を得るべく、基質タンパク、サイトカイン、細胞内シグナル伝達の発現やHBOのみならず抗酸化剤の投与の影響などの解析を進めたい。
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Causes of Carryover |
昨年度は、講座研究室の改装・整備工事が予定より遅れ、使用を本年度に繰り越さざるを得なかったが、本年度は研究室の整備も一段落して順調に研究が進んだ。昨年度の分も含めて試薬、各種抗体、PCRプライマー、硝子製品など消耗品の購入が支出の大部分を占めたが、試薬などが想定した価格より安価に購入出来たため、少額ではあるが次年度使用分が生じた。次年度は、引き続き動物実験、PCR、免疫染色、ウェスタンブロット解析等を継続するための消耗品ならびに研究発表旅費、論文執筆費用などに残額を全て使用する予定である。
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