2016 Fiscal Year Research-status Report
還元型グルタチオンの歯髄保護効果:歯科保存修復への応用
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16K11542
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
平石 典子 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 日本学術振興会特別研究員 (20567747)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グルタチオン / 歯髄細胞 / 毒性試験 / 解毒作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体にも存在する、還元型グルタチオン(以下グルタチオン)は、非タンパク質チオールトリペプチドであり、細胞レベルで水溶性の抗酸化物質として働き、解毒作用に関与する物質である。まず、グルタチオンの使用方法は、歯髄組織に近い深い窩洞に直接塗布し、歯髄細胞活性化を想定した。本年後は覆髄剤のMineral trioxide aggregate(MTA)に注目した。MTAは工業用セメントとして汎用されるポルトランドセメント由来の構成で、微量ながら毒性の高いヒ素が検出されるとの報告がある。本材は直接覆髄剤として臨床応用されるため、生体適合性の観点から、ヒ素の溶出は歯髄反応への影響が大きいと懸念される。MTAからヒ素が溶出した場合を想定し、グルタチオンによる細胞毒性軽減効果は、臨床予後改善の可能性から大変興味深い。本研究では、Mineral Trioxide Aggregate (MTA) 硬性セメントの粉体のヒ素含有量及び液混和後のヒ素溶出量を測定した。ラット歯髄細胞株(RPC-C2A)にて、MTT 試験を行い、ヒ素毒性試験、及び還元型グルタチオンによるヒ素解毒効果を検討した。ヒ素による細胞毒性試験では、6時間、24時間培養の結果はともに、50μMヒ素濃度で毒性が見られた。50μMヒ素に5000μMの還元型グルタチオンを加えた結果、有意な(p<0.001)ヒ素の毒性軽減がみられ(グラフ)、培養細胞の増殖、生存形態に改善が見られた。結果は、「 MTAセメントのヒ素含有量、ラット歯髄細胞への毒性、及び、グルタチオンによる解毒作用について」として、第69回日本歯科理工学会学術講演会 April 15-16,2017. 東京 にて、口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず毒性物質を確定する為、プロルートMTA(デンツプライ三金株式会社)のヒ素量測定を行う必要があった。プロルートMTAは工業用セメントとして汎用されるポルトランドセメント由来の構成で、微量ながら毒性の高いヒ素が検出されるとの報告がある。本材は直接覆髄剤として臨床応用されるため、生体適合性の観点から、ヒ素の溶出は歯髄反応への影響が大きいと懸念される。0.5g粉中ヒ素を、蛍光X線分光分析装置(X-ray Fluorescence Spectrometer HORIBA, XGT-10000WR)にて測定した。24時間湿潤状態で硬化後粉砕し、0.1N硝酸水溶液(pH 1)18mlにて溶解させ、その濾過液を試験溶液とした試験溶液中ヒ素含有量を、誘導結合プラズマ発光分析装置(SHIMADZU, ICPS-7000 ver. 2)にて測定した。ラット歯髄細胞へのヒ素毒性を測定し、毒性を呈したモル濃度にてグルタチオンの解毒作用を評価した。還元型グルタチオンの濃度依存性細胞活性効果が見られたが、5000マイクロMの還元型グルタチオンを加えた結果、十分な解毒作用が現れた。グルタチオンは生体細胞内に 0.5から10 mMという比較的高濃度で存在する物質で、生体内に存在する安全な化学物質である為、5000マイクロM以上濃度での、有効利用の可能性は大きいと言える。この濃度依存性細胞活性効果が見られた最適濃度の結果を出すのに実験を繰り返したが、今年になってから、生体適合性の評価を、培養細胞レベルでのMTT、ALP活性試験、細胞増殖試験を行っている。解毒作用の効果について予備実験が十分出来たため、現在までの進捗状況毒性は概ね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
生体適合性の評価を、培養細胞レベルでのMTT、ALP活性試験、細胞増殖試験に加え、炎症性マーカーのプロスタグランジンELISAアッセイ等を行い、グルタチオンの濃度、配合率の最適化を行う。グルタチオンの歯髄保護効果、さらに修復象牙質の形成を組織学的実験は興味深いが、実際の動物を使ってのラット歯髄反応試験にはすぐに移行せず、十分なin vitro実験を遂行する予定である。細胞レベルでの実験系は、複数のアッセイキットが必要で、特に炎症性マーカーのプロスタグランジンELISAアッセイシステム等は高価であるが購入を検討している。第69回日本歯科理工学会学術講演会で口頭発表した際に、還元型グルタチオンの解毒作用について質問があり、ヒ素以外の歯科薬品の細胞刺激性軽減についての可能性も試して生きたい。具体的には、フッ素、抗菌剤の銀イオンなどの歯科薬品である。今後実験対象に加える必要があると思われた。リアルタイムPCRで高感度に検出するには、特異的に反応するプライマーを設計することが重要だが、ラット歯髄由来細胞(RPC-C2A)の情報が少なく、今後はより的確な設計が可能な細胞に変更も検討する。 カルシウム沈着度(Alizarin Red S Staining)を測定し、骨組織、象牙質形成分化遺伝子マーカー(ALP, osteocalcin, dentin sialophosprotein, dentin matrix protein 1, bone sialoprotein)の発現をRT-PCR で定量評価も検討する。
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Causes of Carryover |
ヒ素含有するであろうプロルートMTA(デンツプライ三金株式会社)のヒ素量測定を行う必要があり、蛍光X線分光分析装置(X-ray Fluorescence Spectrometer HORIBA, XGT-10000WR)や誘導結合プラズマ発光分析装置(SHIMADZU, ICPS-7000 ver. 2)など、大型の機器を使用する必要があった。本来外注委託も考えたが、同じ研究機関で共同研究として実施できたため、使用額軽減につながった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実際の動物を使ってのラット歯髄反応試験にはすぐに移行せず、十分なin vitro実験を遂行する予定である。細胞レベルでの実験系は、複数のアッセイキットが必要で、特に炎症性マーカーのプロスタグランジンELISAアッセイシステム等は高価であるが購入を検討している。
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