2016 Fiscal Year Research-status Report
三叉神経領域の痛覚日内変動機構の解明 ‐効果的な時間薬物療法の確立に向けて‐
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16K11749
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
杉村 光隆 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 教授 (90244954)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
真鍋 庸三 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 講師 (90248550)
遠矢 明菜 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 助教 (80593649)
是枝 清孝 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 助教 (20760614)
山下 薫 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 医員 (50762613)
大野 幸 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 助教 (00535693)
岐部 俊郎 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 助教 (50635480)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 概日リズム / 三叉神経系 / 痛覚日内変動 / Cry1/Cry2 ノックアウトマウス / 時計遺伝子 / 時間医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「三叉神経領域の痛覚日内変動の解明‐効果的な時間薬物療法の確立に向けて-」は大阪大学で実施予定であったが、実施責任者の異動にともない異動先で展開することとなった。そのため、今年度は当分野の共同研究者が大阪大学に出向し、研究場所移転のため以下に示す3点を中心に研究準備を行った。 1)時間生物学的な実験を行う上で必要となる知識と技術の習得:マウスの内因性リズムの周期は約23.7時間であるが、光刺激によってそのリズムを地球と同じ24時間に同調させている。このように光刺激は強力な環境因子であるが、それゆえマウスが活動期の暗期に光暴露されると、それだけで体内時計は狂い、いわゆる時差ボケの状態となる。また、光と同様に給餌条件も重要であり、マウスの概日リズムに影響を与えることが知られている。このように何気ない飼育環境の条件やイベントが、マウスの睡眠・覚醒に加え、脳波やホルモン分泌、体温、血圧などの生命活動全般にわたるリズムに影響を与えうるため、時差ボケ状態のマウス用いて定時に疼痛評価を行っても全く意味をなさない可能性が生じる。このような状況を回避するため、適切な飼育方法を理解し、習得することに努めた。 2)Cry1/Cry2 ノックアウトマウス維持のための環境整備:本研究では時計遺伝子のCry1およびCry2ノックアウトマウスを用いる予定であるが、このマウスを大阪大学より当施設へ搬入し、本実験を開始できる状態とした。 3)関連実験や予備実験の遂行:摂食のタイミングとサーカディアンリズムとの関係を検討し、その成果を関係学会で発表した。また、予備実験として三叉神経系における時計遺伝子の発現を検討したところ、明瞭な日内変動が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
下記の2点について、出向先の大阪大学で実験を行った。 1.関連実験-摂食タイミングを制御するサーカディアンリズム: 夜行性のマウスは活動期の夜間に摂食行動をするが、この摂食のタイミングに合わせて関連する生理機能も日内変動を示す。一方、一日の摂食タイミングを昼間の一定時間に制限することで、給餌時刻前に新たな行動・内分泌リズムが形成されることが知られている。今回は、時間制限給餌条件に対する給餌前行動の特性を明らかにし、同行動特性に対して、様々な生理機能に変容をきたす加齢の影響について調べた。その結果、摂食タイミングと給餌前行動はサーカディアンリズムの特性を示し、これらのリズムは、視交叉上核によって制御される通常の夜行性リズムから乖離することが明らかになった。また、加齢によって、外的な環境変化に対しての適応性が弱まるということが示された。 2.予備実験-三叉神経系における時計遺伝子 (per2) 発現の日内変動の解析:時計遺伝子の1つであるPer2遺伝子にホタルの発光酵素であるルシフェラーゼを挿入したノックインマウスは、発光基質であるルシフェリンを加えることによって目的とする部位の発光を計測することができる。このマウスを用いて、視交叉上核及び三叉神経系のPer2遺伝子の発現を解析したところ、明瞭な日内リズムが観察された。 本実験に関しては、使用予定のCry1/Cry2 ノックアウトマウスを大阪大学より当施設へ搬入し、環境整備が完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.三叉神経第二枝領域における、侵害受容性疼痛モデルの作製、及び痛覚を定量化する測定系の確立:10 週齢の雄性マウス(C57BL/6J Jms Slc、日本SLC)を実験ケージに1匹ずつ入れてしばらく馴らした後、用手的に左側上口唇(三叉神経第二枝領域)にホルマリン(5%、10μl)を皮下注射する。薬剤投与後、実験ケージに速やかに戻し、45 分間、疼痛関連行動(PRB;pain-related behavior;licking、flinching、lifting、biting、guarding、shaking など)の行動回数や持続時間を評価する。また、当該モデルでの免疫組織化学染色によるターゲットタンパク(c-Fos)の発現動態を検討する。 2.確立した定量性を用いた、対照マウスの痛覚日内変動の測定:データ採取は夜行性マウスの活動期(暗期)の0 時と休息期(明期)の12 時の2 点とし、ホルマリン(5%、10μl)または生食水(0%、10μl)の2群に分け、各群8匹ずつとする。ホルマリン注射後、PRB の総回数およびそれに要した総時間を、2 相(acute phase;0-10 分、tonic phase;10-45 分)に分けて記録する。その後、1.に準じて免疫組織化学染色によりc-Fos の同定および定量を行う。 3.時計遺伝子Cry1/Cry2ノックアウトマウスを用いた、痛覚日内変動の測定:Cry1/Cry2ノックアウトマウスを用いて、2.と同様の方法で行う。 4.卵巣摘出した侵害受容性疼痛モデルにおける痛覚の日内変動に及ぼすエストロゲンの影響や、痛覚の日内変動を考慮した鎮痛薬の投与法(時間治療学的投与法)についても検討する。 さらに追加実験として、時計遺伝子発現リズムの測定系もセットアップする。
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Causes of Carryover |
今年度は、実験を開始する前の準備期間に当て、まずは時間生物学的手法の獲得とノックアウトマウスの導入に重点をおいた。そのためそれに伴う出張費等は発生したが、実験に必要な機材・物品はリストアップのみ済ませ、次年度に順次購入予定としている。また、予備実験で興味深い所見が得られたことから、当初予定していた実験系に加え、時計遺伝子発現リズムの測定系も追加でセットアップする方針とし、そちらにも予算配分をしたことより次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ノックアウトマウス維持管理費用の他、遺伝型判定のための測定機器一式、免疫組織化学染色法によるタンパク同定および定量関連試薬、一般試薬、外科用処置セットなどを購入予定である。この他、時計遺伝子発現リズムの測定に必要なインキュベーターや発光測定機器及び専用解析ソフト、Per2::Lucノックインマウスも一式購入予定である。これらに加え、関連学会への参加や共同研究先との研究打ち合わせ等にも使用する予定である。
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