2016 Fiscal Year Research-status Report
歯根膜組織の再生・恒常性維持マシナリーに関与する新機能の探索および応用法の開発
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16K11804
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
長谷川 智一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 講師 (50274668)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 善隆 北海道大学, 歯学研究科, 准教授 (30230816)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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Keywords | 乳歯 / 恒常性 / 歯根膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳歯は永久歯と交換し、自然脱落し廃棄されることが多い。近年、脱落する乳歯には幹細胞が含まれ、神経細胞、骨芽細胞などへの分化能を示すことが報告された。しかし乳歯由来の幹細胞は特別な研究室でないと培養が困難である。 我々は乳歯歯根膜細胞の不死化細胞株を樹立し、その歯根膜細胞に発現するstromal derived factor 1 α (SDF-1)が間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells, MSCs)の遊走を誘導することを示した。 このことから、乳歯歯根膜細胞はSDF-1を発現して、周囲のMSCsの遊走を誘導し、局所の再生や恒常性維持の働いていると考えられた。さらに将来、脱落した乳歯を保存し、移植して、患者の修復や再生の必要な部位にSDF-1発現を調節して、局所の修復反応に応用可能なことも考えられた。すなわち乳歯の特別な幹細胞を分離せずとも臨床応用可能な可能性を示した。 これまでにサイトカイン類によるSDF-1の発現調節機構について検討を行った。乳歯歯根膜細胞の発現するSDF-1はfibroblast growth factor 2 (FGF-2)により抑制された。この抑制機構はFGF受容体(FGFR)を介していることを示せたが、その下流の因子については不明である。FGFRから下流と予想される細胞内シグナルの阻害剤を投与して多数検討を行ったが明らかとならなかった。そこでFGF-2によるSDF-1の抑制機構の解析のために、PrimerArrayによる半網羅的解析を行った結果、FGF-2の投与によってサイトカインAとその受容体Bの発現抑制を介して2次的に生じていること可能性がmRNAの発現解析から考えられた。今後は、実際にFGF-2を投与した際に、受容体B下流の細胞内シグナルも介しているのか解析する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FGF-2によるSDF-1の発現抑制機構の解析において、これまで1種類のサイトカインによる1次的作用機構にとらわれ解析を行ってきた。しかし今年度の研究実績より、1つのサイトカインにより他のサイトカインの発現を調節し、その結果として2次的に現象が生じる可能性が予想された。すなわち複雑なサイトカインネットワークによる細胞機能の制御機構が予想された。 この現象を詳細に解析することにより、患者自身の細胞による再生治療・移植条件への最適な条件を整えることが可能になると考えられる。すなわち、ただ1つのサイトカインを投与して効果を期待するだけでなく、その有用な効果に逆に働くネットワークには抑制的な薬剤も同時に投与しておくという戦略である。臨床応用時には有力な戦略と考えられる。 以上のことから、今年度の研究実績は、近年の業績主義による、現象を単純に解析することで論文を量産する環境で見落としている、多次元的な解析の必要性と重要性、基礎研究の魅力を再認識させてくれた。この意味からも、本研究計画は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
FGF-2によるSDF-1の発現抑制機構の解析を継続する。今回の現象は乳歯歯根膜細胞におけるFGF-2とサイトカインAおよび受容体Bの相互作用を、SDF-1を出力として結果を出してきた。FGF-2とサイトカインAの相互の発現調節機構についてはこれまで報告が無く、このメカニズムについて他の細胞についても解析を行うことで、新たな細胞内シグナルの分子が見つかる可能性がある。 またサイトカインAと受容体Bからの相互作用については既知の機構についての解析を行いつつ、こちらも新たなメカニズムの発見を試みる予定である。 さらに我々は独自の圧迫培養デバイスを所有している。このデバイスによる解析も予定している。
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Causes of Carryover |
助成期間が非常に短期間だったため未使用額が生じた。追加内定の連絡が10月であったのにも関わらず、助成金の使用が可能になったのが12月末であった。さらに年度末の3月は使用できず、研究期間が実質的に1月および2月の2ヶ月間しかなかったために助成金に未使用額が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究期間が十分にある今年度の29年度に、28年度予定していた研究計画を行う予定であるため、未使用の助成金の使用には問題はない。
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Research Products
(5 results)