2016 Fiscal Year Research-status Report
p-HPPHを分子標的とした新規創傷治癒促進薬の開発
Project/Area Number |
16K11805
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
中川 弘 徳島大学, 病院, 講師 (70192218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 公子 (山口公子) 徳島大学, 病院, 助教 (40335807)
北村 尚正 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 助教 (50614020)
岩本 勉 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 教授 (90346916)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歯学 / 創傷治癒 / p-HPPH / フェニトイン / 細胞遊走 / 細胞増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
【目的】抗てんかん薬であるphenytoin (PHT)は,てんかんの大発作を抑制するのに優れた効果を持つが,副作用として歯肉増殖症を発症させる。近年、その副作用を利用して皮膚の創傷の治癒促進にPHTを用いようとする試みがあるが、その強い薬理作用のため生体に応用できない。我々は以前の研究で、PHTの代謝産物である5-(p-hydroxyphenyl)-5-phenylhydantoin (p-HPPH)も歯肉増殖に大きく関与していることを明らかとした。p-HPPHにはPHTのような薬理作用はないためPHTの代わりにp-HPPHを創傷治癒促進剤として応用することが可能である。そこで、本研究ではヒト歯肉線維芽細胞におけるp-HPPHによる細胞遊走の促進作用について検討したので報告する。 【材料と方法】細胞はヒト歯肉線維芽細胞(HGF)を使用し、培地は10%濃度のFBSを含有するDMEMを用い、37℃、5%CO2条件下にて培養を行った。 1.増殖試験: DMSOに溶解したp-HPPHを、10μg/ml、15μg/ml、20μg/mlの濃度に調整した10%FBS含有培地にてHGFを培養した。コントロール群には、実験群と等量のDMSOを加えた培地を用いた。細胞数は、0日、1日後、2日後にCell counting kitを用いて、マイクロプレートリーダーにて吸光度を測定して求めた。 2.細胞遊走試験:コントロール(DMSO)、10μg/ml、15μg/ml、20μg/mlのp-HPPH濃度に調整したFBSフリー培地にてHGFを培養し、Culture-insert(ibidi)を使用したMigration assayにて細胞遊走を検討した。 【結果】p-HPPHは、HGFの増殖に影響を及ぼさなかった。濃度20μg/mlのp-HPPHはコントロールと比較して有意に細胞遊走の促進がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
p-HPPHの創傷治癒促進作用を検討するため、細胞増殖試験と細胞遊走試験を行い、予想通りの結果を得ることができた。 創傷治癒過程における細胞の遊走、細胞間の接着には、高分子の3量体G蛋白質や単量体の低分子量型G蛋白質などのさまざまな細胞内G蛋白質が関与している。とくに近年では、Rhoファミリーの低分子量G蛋白質(Cdc42、Rac1、Rho A)が創傷治癒過程で線維芽細胞に大きく影響することが明らかになりつつある 。 現在、線維芽細胞をp-HPPHで刺激し、Rho AとRac1の活性化(GTP結合型の活性化)をWestern Blotting法を用いて検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
【Ⅰ型コラーゲンに関する実験】 HGFのコラーゲン産生能および分解能に及ぼす影響についての検討 各群の培地で2日間培養したHGFを採取し、TrIsol (Invitrogen)を使用して、totalRNAを抽出する。各群から抽出したRNAから、Ⅰ型コラーゲンの mRNA およびMMP-1(Ⅰ型コラーゲン分解酵素)のmRNAの発現量を測定する。検出はTaKaRa SYBR Premix Ex TaqⅡ(タカラバイオ)によるリアルタイム2Step RT-PCR反応により行う。各群のmRNAのレベルは、GAPDHを用いて標準化し、比較Ct法による定量を行う。 【創傷治癒モデルマウスを用いた実験】 麻酔下で背部を剃毛し、直径8 mm の皮膚トレパンにて皮筋を含む皮膚全層欠損創を作製する。作製直後より1日2回、朝夕に創傷部にp-HPPH単独薬剤および増強因子併用薬剤を塗布する。肉眼的観察のため開始より3、7、12日後にポリプロピレンシートを創部に直接密着させ、創の形状をマジックでマーキングし、シートに記入した創の面積はスキャナーで取り込み、NIH image(USA) で測定する。同時に組織学的観察のため、動物をPentobarbital Sodium の大量投与により安楽死させ、創傷部とその周囲の正常組織を含む1.5 cm×1.5 cmの正方形を切り出す。採取した組織を4% パラホルムアルデヒドにて一晩固定後、常法に従い、アルコール脱水、キシレン透徹、パラフィン包理した後、厚さ5 μm で連続切片を作製する。ほぼ創中央の連続した切片にヘマトキシリン・エオジン染色を施し光学顕微鏡にて組織学的観察を行う。
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Causes of Carryover |
現在、線維芽細胞をp-HPPHで刺激し、Rho AとRac1の活性化(GTP結合型の活性化)をWestern Blotting法を用いて検討中であり、その実験で用いる試薬の分を翌年度に繰り越している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、細胞シグナルの研究に用いる予定にしている。また、翌年度請求助成金は、I型コラーゲンに関する研究と創傷治癒モデルマウスを用いた実験に使用する予定である。
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