2018 Fiscal Year Research-status Report
齧歯類の切歯の発生を研究するための新たな移植方法の開発
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16K11848
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Research Institution | Fukuoka Dental College |
Principal Investigator |
坂上 竜資 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (50215612)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | apical bud / セメント質 / Hertwig上皮鞘 / Malassezの上皮遺残 / 上皮間葉転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれは、歯胚の上皮系細胞の動態を追跡することで、歯の発生と分化のメカニズムを解明し、再生療法に応用することを目指している。これまで、生涯に亘って伸び続けるマウス切歯に着目してきた。この根尖部分にはapical budとよばれる上皮系の組織幹細胞があり、GFP陽性トランスジェニックマウスの下顎切歯根尖部を、野生型マウスに移植生着させる手技を4年前に開発し、歯胚上皮由来細胞がGFPを発現するハイブリッドの歯胚を作製した。この研究で、根尖部の組織幹細胞が上皮間葉転換を起こしてセメント芽細胞様細胞となる可能性を示した。 この方法をさらに洗練することに3年前からチャレンジし、現在はGFP陽性apical bud細胞 のみを分散処理して35ゲージ針で注入する手技を完成している。この1年間で、細胞の注入技術の向上など、初期に比べて格段に洗練した手技を確立した。すでに数多くのマウスへの移植実験を遂行しているものの、データ解析は進んでいない。この理由は、当初の実験手技で得られた動物検体を用いるよりも、改良された現在の実験手技を用いて新たに組織採取を行った方が、コントロールされたデータを得られると考えるに至ったためである。新しい手技による実験成果を得るため、実験期間の1年間の延長願いを申請し、これが認められてた。 次年度からは、大学院生の協力が予定されているため、今年度までに確立した手技を大学院生と共有することによって、動物実験は飛躍的に進むと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、マウスを用いたオリジナルの動物実験手技の開発を日々進めている。GFP陽性マウスから顕微鏡下でのディスパーぜを用いた組織幹細胞を分離し、200μlチューブ中での細胞分散、35ゲージ極細針を用いての細胞注入など、格段に洗練された手技を確立した。すでに数多くの野生型マウスへの移植実験を遂行しているが、移植の技術レベルは日々上がっている。このため、当初の動物検体よりも最新の動物検体からの試料採取を優先した方がより良い研究成果が得られると考えるようになった。そこで、よりコントロールされた実験データを採取するため、実験期間延長を希望するに至った。実験計画は1年延長されたが、当初の目標以上の成果を得るためには避けられない状況であった。 これまでは、一人で実験を遂行してきたが、幸いなことに新入学の大学院生が、動物実験に参加するようになり、共同作業と技術伝達とができるようになっている。細胞移植用のドナーとしては生後1週から3週のGFPマウスを必要とする。遺伝子改変マウスを購入せずとも、自己繁殖が可能となったので、今後はこれまで以上に制約がなくなり実験が進むと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題は、歯の発生についての未知領域を解き明かし、さらにこの知見をもとにして、歯と歯周組織の発生、再生への新技術を獲得することを目的としている。歯科における発生学の進展のためには、是非とも必要な研究であると自負している。現状において、セメント芽細胞の由来がこれまで信じられてきたとおりに「間葉系細胞由来」なのか、それとも上皮系の幹細胞が「上皮間葉転換」により生じた結果なのかは未だに結論が出ていない。我々の先の研究では、セメント芽細胞にGFP陽性細胞を認めたことにより、上皮間葉転換の可能性を示すことができた。今回の研究は、実験の精度を上げてこれを証明することを目標としている。実験における曖昧さを極力排除するために、移植する細胞が完全に上皮系の細胞のみから成り立っていることを証明する必要がある。このためには、細胞分離の一部始終を記録として残し、さらに分散した細胞のFACS解析、または免疫染色を行って、細胞のオリジンが上皮系にのみ由来することを証明しなくてはならない。 川本法による凍結未脱灰標本のサンプリングの手法は確立している。GFP陽性細胞が生着し、これをトレースできれば、上皮系細胞としてそのまま残るものと、上皮間葉転換を生じるものとが区別して観察できると考えている。これにより歯周組織の発生、再生の考え方に、パラダイム・シフトを生じさせることができるかもしれない。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、3年間で研究成果を取りまとめる予定であった。しかし、共同研究予定者が退職し、研究補助者として当初手伝ってもらっていたが、やがて全く時間を作ることが難しくなった。このため、研究の主体は申請者本人のみとなり、研究の進捗に大きな影響が出た。しかしその後、様々な試行錯誤を独自に重ね、3年前と比べると格段の技術進歩を見るに至っている。また、その実験精度の向上により、直近の実験データが過去の実験データよりも信頼性を高めているという現象が生じている。これまで動物への移植実験は数多く行っているが、過去の信頼性の低い実験データの解析は控えることとした。信頼性の最も高い、最新のデータで研究成果をまとめるという考えに至っている。 実験手技の確立に時間はかかったが、延長年度においては目標とする以上の成果を上げられる見込みが高い。幸運なことに、今年度からは大学院生が実験に加わることとなったので、研究がさらにすすむことが期待されている。
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