2017 Fiscal Year Research-status Report
北関東の低認知被災地域における住民活動と権利回復 ―人間の安全保障論による分析―
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16K12368
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
清水 奈名子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (40466678)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 低認知被災地 / 原発事故 / 北関東 / 住民活動 / 権利回復 / 人間の安全保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究実績は、以下の3点である。第一に、栃木県北の原発事故被災地域に居住する乳幼児保護者を対象として、健康調査に関する意識調査を行った。平成28年度に引き続き、北関東子ども健康調査支援基金の協力により、2017年6月には那須塩原市、7月には益子町、11月には矢板市においてアンケート調査を行ったほか、2017年12月および2018年1月には、塩谷町主催の甲状腺検査会場においても受検者または受検者の保護者を対象にアンケート調査を実施した。集計と分析の途中であるが、28年度の調査結果と同様に、低認知被災地においても原発事故による健康影響の調査を希望する保護者、関係者が多数にのぼっている状況に変化はみられないことが予測されている。 第二に、福島県以外の低認知被災地において、事故被害に対応する住民活動を続けている関係者への聞き取り調査として、北関東子ども健康調査支援基金関係者、栃木県北ADRの関係者、千葉県におけるヨウ素剤配布活動に関わる関係者、東日本土壌ベクレル測定プロジェクト関係者を対象に実施した。いずれの団体も、甲状腺エコー検査、福島県外の汚染地域における被害者への賠償、ヨウ素剤の予防的な配布、土壌汚染状況の測定など、本来は行政や事故責任を負う企業が実施すべき対策が不在であることに対応して、市民たちが自発的な活動を続けている実態と、その活動の維持継続における困難な状況が明らかになった。 第三に、平成28年度以降のアンケートおよび聞き取り調査の結果を踏まえて、国際政治学会において研究報告を行ったほか、2017年10月には栃木県の土壌汚染状況に関する情報交換会を、また2018年2月には栃木、茨城、福島、群馬をはじめとする被災地域の調査を続ける研究者等が地域や分野を越えて議論を行う研究成果報告会を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンケート調査、聞き取り調査いずれもほぼ予定通り実施できたほか、研究計画書において予定していた研究成果報告会を開催することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、栃木県、茨城県、千葉県、群馬県、宮城県等において民間の甲状腺検査を実施してきた関係者、土壌や食品等の測定作業を行っている市民団体関係者、保養プロジェクトに関わる関係者など、持続的に住民活動を続けている関係者への聞き取り調査を行い、その内容を記録した冊子刊行のために必要な情報を収集する。上述した住民活動関係者には、既に調査についての内諾を得ている。これらの低認知被災地における調査、研究の成果の一部は、冊子として印刷刊行を目指す。 最終年度の平成31年度には、「人間の安全保障」論に関する先行研究と30年度までの調査結果を踏まえ、原発事故後の被災地における住民の権利回復のための運動を、日本国内における人間の安全保障を実現するための活動として位置づける作業を行う。3年間の研究成果をまとめて検討するために、栃木県、茨城県、千葉県、群馬県、宮城県、福島県の関係者、並びに「人間の安全保障」に関する政策に関与してきた国際機関関係者との意見交換を行う予定である。また、研究成果を書籍や論文として発表するほか、担当する関連授業科目において研究成果を取りあげ、市民向けの公開授業とすることで、広く一般市民や被災者に向けても成果を公表する機会を設定する。
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Causes of Carryover |
2018年2月に開催した成果報告会の報告書の印刷及び刊行のための作業期間が2カ月以上必要であったため、印刷費および報告書郵送費を2018年度に使用するため。
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