2016 Fiscal Year Research-status Report
森・川・海のつながりから国土保全と農林水産業振興のための「伝統知」を探る
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16K12665
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Research Institution | Kawaguchi Junior College |
Principal Investigator |
小島 望 (小島望) 川口短期大学, その他部局等, 教授 (10435240)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 自然との共生 / 伝統知 / 森林機能 / ダム / 環境教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,森・川・海と人と暮らしのかかわりのなかで,地域で長く受け継がれてきた「伝統 知」の掘り起しを行ない,同時に,自然環境が開発等人為的影響によってどのように変化してきたかについて,①現地での聞き取りやアンケート調査,②文献検索によって明らかにすることが目的である.調査地はおもに,熊本県人吉市(球磨川流域),徳島県那賀町,沖縄県辺野古の3ヵ所であるが,隣接する周辺地域や,特徴的な伝統的農林水産業を営んでいる場所についてはこの3ヵ所に限らず調査を行なっている. ①現場での聞き取りから,例えば球磨川流域では,かつての人々の暮らしが詳細にみえてきた.かつてこの地には「水害」という言葉はなく,台風や集中豪雨の際には,川と上手くつき合ってきた歴史や知恵が集積されている.数々の「伝統知」を集めることができた.しかし,科学的な災害対策,特に河川工学的治水対策が中心となった特に戦後以降は,それら「伝統知」は通用しなくなり,姿を消していった.球磨川に幾つものダムができて以来,同時に,地域住民と川との関係が変化していったのは当然であろう.このような背景があったからこそ,川辺川ダム計画は中止されたといえる. 那賀町(旧木頭村)においては,山や川と深く関りをもった伝統的な暮らしを探ることによって,戦後の経済成長政策が中山間地を犠牲に成り立っていたかを考えるための材料を得ることができた.また,拡大造林や下流域のダムの影響など近代化によって「伝統知」が失われつつあったが,ダム建設反対運動を通して,かつての人と自然のつき合い方が問われたという事実が見い出すことができた. ②収集した様々な資料によって,日本各地での伝統的な川や山と人の暮らしの比較検証を行なうことで,今後の農林水産業のあり方や,ダムを中心とする河川構築物が水産業へいかに大打撃を与えたのかについての様々な情報を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,①現地での聞き取りやアンケート調査,②文献検索,の大きく2つによって構成されている. ①熊本県人吉市を中心とする球磨川流域での調査は昨年の熊本地震によって(関係者などが被災したため),大幅な遅れが出ている.徳島県那賀町での調査では特に重要人物と考えていた対象者が病気となり,聞き取り困難な状態となってしまったことが調査の遅れにつながっている. 他方,本研究の本筋ではないが,「伝統知」を調べていくなかで,人と動物の関係性について貴重な情報が得られたため,特に中山間地では深刻になっている「獣害」について「人と自然との共生」という視点を交えながら,本(『野生動物の餌付け問題』)の執筆に携わったことが本研究の遅れの若干の原因のひとつにもなった.
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Strategy for Future Research Activity |
①調査地のなかでも最も重要視している球磨川流域での調査は,昨年度の熊本地震によって,聞き取り対象者や関係者の一部が被災し,調査を一時期中断せざるを得ない状況が発生した.そのため,当該地においての聞き取りや資料収集が未だ足りていない部分が多く,今年度いっぱいを要することが予想される. 徳島県那賀町での聞き取りについては,特に重要人物と考えていた対象者が病気となり,聞き取り困難な状態となったことから,これについても予定よりも遅れている. 前者についてはようやく落ち着いた状態となり,急ぎ調査を再開しているが,後者については対象者を変えて行なうことを考えている.地域住民のなかで候補者を選定し,早急に対処したい. ②文献はかなり揃ってはきたが,環境教育面での資料が手薄であるので,その検索については教育学系の研究者に助力を願おうと考えている.
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Causes of Carryover |
昨年度の熊本県地震によって,球磨川流域の調査対象者の聞き取りを行なうのが困難となってしまったため(関係者が被災),昨年度は調査を中断せざるを得なかったことと,徳島県那賀郡での聞き取りの対象者が病気のため,対象者を再度選考しなおさなければならなくなったことから,昨年度の旅費における使用額が大幅に減額してしまった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度予定していた調査を今年度予定に組み込み,それにともなう謝礼,物品費も今年度に移行する.WEBサイトの開設についても今年度半ばまでには実施したいと考えているので,そのための支出も予定している.
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Research Products
(1 results)