2017 Fiscal Year Research-status Report
鉄骨考古学による途上国デザイン史構築のための方法論の研究
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16K12674
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
谷 正和 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (60281549)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田上 健一 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (50284956)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歴史的建築 / バナーキュラー建築 / デザイン史 / 発展途上国 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、前年度までに作成した暫定的な鉄骨の編年の妥当性を検証するため、建設年代が分かっている建築の部材を分析した。分析対象は、バングラデシュ・ナラヤンガンジ県のパナムナガール地区の建造物群である。パナムナガールは綿布の輸出を扱う裕福な商人がおよそ1870年から1930年代にかけて多くの邸宅を建設してきた地区であり、49棟が残存する。ここに残る建築物を対象として、平成29年9月に鉄骨部材の形状的特徴と建築物の建築年代を調査した。調査の結果、10棟の建物で鉄骨が用いられていた。その鉄骨の刻印から確認できた製鉄会社は、GLENGARNOCK IRON & STEEL、FRODINGHAM IRON & STEEL、CARGO FLEET IRON Co、DORMAN, LONG & Co Ld、TATA STEEL IRON & STEEL Co Ld の5件であり、これらの会社に関する文献と照合することで年代特定を行い、鉄骨の製造時期が明らかとなった。そして1887年から発刊されたDORMAN LONG社とイギリスの工業規格であるBritish Standard のカタログを用いて、実測した鉄骨断面の寸法とカタログに掲載された鉄骨の型番を照合することで、製造年代の範囲を特定することができた。一方、実建築物に残された銘板からわかる建設年と、鉄骨の製造年代特定の結果が一致しない建物があり、建物の改修時に鉄骨が導入された可能性が示唆された。このことから、鉄骨の状態や建物の図面・文書から、建設の際に構造部材として用いられたと判断できた鉄骨を、建物の年代特定の手がかりとして建物の編年方法の確立を進めていく必要があるという課題も明らかとなった。 また、ケーススタディとして、イギリスから一定量の鉄骨が輸入されたと考えられる旧英領インド東部の港湾都市チッタゴン(バングラデシュ)を対象として、英領期バナキュラー建築物の分布を把握した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究実施計画は、前年度までに作成した暫定的な鉄骨の編年の妥当性を検証するため、建築年代が分かっている建築の部材で検証することであった。それに対し、研究実績のように、平成29年9月にバングラデシュ・ナラヤンガンジ県のパナムナガール地区の建造物群の調査を実施し、1870年から1930年代に建設された建築物に使用された鉄骨部材の分析を行った。さらに、同時期の日本における鉄骨材と鉄骨造建築の導入についても調査し、鋼材の寸法と製品目録との比較から、製造元や製造年代特定の可能性を明らかにした。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
植民地のデザイン史を構築するための鉄骨編年の有用性を評価するために、前年度のチッタゴンに加えて、ミャンマーのシットウェーを対象にしてケーススタディを実施する。シットウェーにおいても、体系的な分布調査を実施し、鉄骨形状による建築物の年代特定を行う。そして、チッタゴンとシットウェーにおける編年過程を分析することで、鉄骨編年の適用可能性を評価し、実際のデザイン史構築にかかる問題点を抽出する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、前年度にバングラデシュ・ナラヤンガンジ県のパナムナガール地区を中心に調査を進めたため、ケーススタディとしての旧英領インド東部の港湾都市チッタゴンを対象とした、英領期バナキュラー建築物の分布に関する調査規模を縮小したからである。また、現地協力者にもチッタゴンの予備的な調査を依頼し、今後の課題が明らかとなった。さらに調査が必要であり、次年度使用分を調査旅費に充て、縮小分の調査とともに今年度に実施することで、より研究を進展させる計画である。
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Research Products
(9 results)