2017 Fiscal Year Research-status Report
運動・スポーツ指導者の体罰問題における心理的メカニズムの解明
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16K12987
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Research Institution | Biwako Seikei Sport College |
Principal Investigator |
豊田 則成 びわこ成蹊スポーツ大学, スポーツ学部, 教授 (00367913)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 体罰 / 質的研究 / 心理メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、3ヶ年計画の下、運動・スポーツ指導者の体罰問題に関わる心理的メカニズムを解明することにある。この目的の達成のために、次のような4件の研究課題を設定した。【研究課題1】運動・スポーツ指導者の体罰問題に関連する先行研究を概観することで解決すべき問題点を整理する。【研究課題2】質的研究法の熟達に向けて関連文献を概観し、本研究を遂行するための研究方法や研究範囲を同定する。【研究課題3】体罰経験を有する運動・スポーツ指導者を対象としたフィールドワークを敢行し、直接的かつ集中的なインタビュー調査を実施することにより、当事者の体罰に関連する心理的メカニズムを可視化する。【研究課題4】本研究から得られた成果を積極的に公開し、今後、運動・スポーツ指導場面における体罰根絶へ向けて議論の拡大を図る。 特に、平成29年度は、前年度に引き続いて、【研究課題1】と【研究課題2】に取り組んだ。すなわち、体罰問題に関連する先行研究を概観することで問題点を整理しつつ、質的研究法に関連する先行文献を概観することで、質的研究法の熟達を目指した。 一方、インタビュー調査を敢行し、体罰が生起した事象を分厚く記述することを目指した【研究課題3】。具体的には、体罰経験を有する運動・スポーツ指導者を分析対象とし、インタビュー・マニュアルを基に、ひとりに対して1~2時間程度のインタビューを複数回実施した。その際、本人の承諾を得た上で、会話の内容をICレコーダーに収録し、インタビュー後に逐語を起こした。そのインタビュー資料から、1)語りの表象的特徴を導き出し、2)語りの切片化を行うことで複数の概念を導き出し、それを構成要素として、体罰に至った心理的プロセスやその意味づけ、体験様式などに着目しつつ、3)体罰体験モデルを構築し、発展継承可能な仮説的知見を導き出す、といった手続きを辿った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
特に、本年度においては、質的研究ソフトのNvivoのトレーニング・ワークショップに参加し、本研究者の分析力の熟達に努めた。また、上記【研究課題3】に取り組み、実質的な研究作業を開始した。すなわち、本研究の関心事は、「運動・スポーツ指導者は、どのように体罰を語るのか」といったリサーチクエスチョンの下、上記【研究課題2】から獲得した質的研究法を駆使し、発展継承可能な仮説的知見を導き出すことにある。そこでは、1対1形式の半構造化インタビューを通じて、体罰問題が生起した事象を分厚く記述し、概念モデルを導き出すことによって可視化(相対化)し、今後、この問題の根絶に向けた議論を展開していくことを目指している【研究課題3】。 具体的には、インフォーマント(情報提供者)は、体罰経験を有する運動・スポーツ指導者を対象とし、ひとりに対して1~2時間程度のインタビューを複数回実施する。その際、本人の承諾を得た上で、会話の内容をICレコーダーに収録し、インタビュー後に逐語を起こし、インタビュー資料を作成する。そのインタビュー資料から、1)語りの表象的特徴を導き出し、2)語りの切片化を行うことで複数の概念を導き出し、それを構成要素として、体罰に至った心理的プロセスやその意味づけ、体験様式などに着目しつつ、3)体罰体験モデルを構築し、発展継承可能な仮説的知見を導き出す、といった手続きをたどる。そこでは、質的研究法の代表的な手法である修正版グラウンデッドセオリーアプローチ(M-GTA: 木下, 2007)を採用し、分析を進めることになる。また、質的研究においては、研究の透明性を確保しつつ、どのような認識論の下で分析を行ったのかが重要となる。現段階では、分析結果を拡充するためのインフォーマントを獲得できているとは言い難い。今後は、インフォーマントの獲得、そしてインタビュー、分析に精力的に取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は3ヶ年計画の下、問題事象を分厚く記述し、質的研究法を駆使しながら現象を相対化することを通じて、この種の問題を解決していくための糸口を導き出していくことを目指してきた。従って、研究開始の初年度から2年間をかけて、本テーマに関わる課題について先行研究の概観を通じて整理してきた。現段階においては、一定レベルの先行研究を概観できている。同時に、研究方法の熟達を目指した取り組みをしてきた。特に、質的研究ソフトのNvivoのトレーニング・ワークショップに参加し、質的な分析力の熟達に取り組んだことで、インタビュー資料の合理的分析を推し進めることができている。加えて、研究開始から2年が経過し、問題事象に対するインタビューを実施することを通じて、当該現象の実態を明らかしつつ、その心理的メカニズムを可視化したいと考えている。今後は、インフォーマントを確保し、研究資料の分析に勢力的に取り組みたい。そして、次年度は、本研究計画の最終年度に相当することから、各学会において研究成果を積極的に公開し、議論の拡大を目指したいと考えている。
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Causes of Carryover |
概して、研究成果を拡充するに相当するインフォーマントを確保することができなかったことにより、次年度使用額が生じることとなっている。今後は、勢力的にインタビュー調査を敢行し、研究資料の充実を図る。また、次年度は、本研究計画の最終年度に相当することから、学会発表(日本体育学会、日本スポーツ心理学会、日本室的心理学会など)や学会誌投稿(体育学研究、スポーツ心理学研究、質的心理学研究)など、研究成果の公表に向けての準備を進めたい。投稿論文作成に向けて、先行文献の収集や整理、インタビュー資料の分析と整理など、研究協力者へ依頼し、研究全体の取りまとめをしていく。必要であれば、質的研究における分析力の拡充を図るため、各種研修への参加、情報交換の場への積極的な参加を促すこともあろう。本研究の全体的な拡充に向けて、精力的に取り組みたい。
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