2016 Fiscal Year Research-status Report
自己/他者表象としての新たな民族誌の開拓:代言者/「巫女」としての実践から
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16K13303
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉田 早悠里 名古屋大学, 高等研究院(文), 特任助教 (20726773)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 民族誌 / 聖者信仰 / イスラーム / エチオピア / 代言者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2016年8月11日~9月16日、2017年2月4日から3月15日までの2回、合計2ヵ月半にわたって、エチオピア・オロミア州ジンマ県ゲラ郡に位置するムスリム聖者が暮らす一集落で現地調査を実施した。本年度は、研究課題の初年度であることから、調査対象集落の全体像を解明することを目的とし、(1)集落の成立とその歴史、(2)集落の住民構成、(3)ムスリム聖者のライフヒストリーに関する聞き取り調査を行った。 調査対象の集落は、1940年代に現在のナイジェリア出身のティジャーニーヤ導師アルファキー・アフマド・ウマルによって拓かれた。アフマドが同地を去った後、同地はアフマドの実子とアフマドを敬愛する人々が暮らす宗教的実践を重視した集落として形成、維持されてきた。しかし、ハイレ=セラシエ帝政、デルグ政権、EPRDF政権と、エチオピアの政権交代のもとで、集落の住民が流出・流入したほか、1990年代から政治・宗教・経済の自由化のもとで、現在、同集落は従来の宗教的実践を存続することが困難になりつつあることが明らかになった。 また、同集落には今日までアフマドの実子アブドゥルカリームが暮らすが、この人物も、アフマドと同様に集落の住民やアフマドを敬愛する人々から聖者として受け入れられている。しかし、アブドゥルカリームは、2000年代半ば頃から住民や信奉者との接見を拒否し、隠遁生活をはじめた。こうしたなかで、研究代表者は特別にアブドゥルカリームから接見を許され、アブドゥルカリームの言葉を住民や信奉者に伝える代言者としての役割を担うようになった。なぜ研究代表者自身がこのように同集落における重要なアクターとして位置づけられることになったのか、その理由として同集落が1940年代から現在に至るまでに経験してきた様々な変化が複合的に絡み合っていることが聞き取り調査から明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査・研究は当初の予定通り順調に進んでいる。本年度は、調査対象集落の全体像を明らかにするための基本調査を実施した。現地調査での具体的な調査項目と内容は下記の通りである。 (1)集落の成立とその歴史:調査対象集落の歴史、住民の流入・流出、政権交代による影響などを聞き取り調査を実施し、集落の成立から現在までの約70年におよぶ歴史的変化をハイレ=セラシエ帝政、デルグ政権、EPRDF政権の3つの政権にそって明らかにした。また、各政権ごとに調査対象集落の住宅地図を作成し、集落外観や居住者が政権ごとに変化している様子を解明した。 (2)集落の住民構成:集落の住民74世帯に対して悉皆調査を実施し、世帯構成、親族・婚姻関係、民族、宗教、使用言語、学校教育の有無、所属する住民組織、経済状況や土地所有の状況を明らかにした。これにより、集落住民の基本的な情報を把握することができた。 (3)ムスリム聖者のライフヒストリー:本研究の核となるムスリム聖者アブドゥルカリームの人物像を明らかにするために、集落の住民から聞き取りを行った。具体的には、アブドゥルカリームの出生から現在に至るライフヒストリー、彼の聖性や奇蹟譚に関する語りを収集した。同時に、集落の住民にとってアブドゥルカリームはどのような存在であるのかについて明らかにした。 以上の調査を実施するなかで、1990年頃にアブドゥルカリームを慕う人々がエチオピア各地から同集落に集い、新たな宗教運動の萌芽があったことも明らかになった。そこから本研究は、文化人類学の新たな民族誌の開拓という本研究課題にとどまらず、現代のエチオピアにおける宗教的状況やムスリム聖者信仰をめぐる研究としての展望も拓けてきた。以上から、本研究課題は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は3年間であり、2年目にあたる次年度は、引き続きエチオピアでの現地調査に重きを置いて研究を発展させる。具体的には、集落内の住民の個人・集団間関係を明らかにするほか、アブドゥルカリームの語りの分析にも着手する。その後、研究代表者自身がアブドゥルカリームの言葉をどのように理解、解釈し、人々に代言しているのか、また集落の住民は研究代表者が代言するアブドゥルカリームの言葉を、どのように理解し、どのような実践に移しているのか、これらについて研究代表者自身を客体化して分析の対象として明らかにする。 また、エチオピアの各政権が、ムスリム聖者と聖者信仰に対してどのような立場をとり、調査対象集落に暮らすアブドゥルカリームに対してどのような対応をとってきたのかに関しても調査を実施する。調査対象集落でみられるアブドゥルカリームを中心とする宗教的実践を、エチオピアの国家全体の動きのなかに位置づけて理解することで、本研究を現代のエチオピアにおけるムスリム聖者信仰に関する研究としても発展させていく。
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Research Products
(1 results)