2016 Fiscal Year Research-status Report
グローバルな《規制》の多層的生成と私法の応答可能性
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16K13326
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
曽野 裕夫 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (60272936)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グローバル / 規制 / 私法の応答可能性 / 利益吐き出し / 腐敗行為 / サプライ・チェーン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、グローバルな《規制》の展開についての概況を明らかにするために、「労働」と「腐敗行為(汚職)防止」の局面について基礎的な文献調査を行うことを計画していたが、このうち、前者については進展をみることはできなかったものの、後者について序論的検討を加え、平成29年度中にとりまとめる目途がついた。なお、「労働」と「腐敗行為(汚職)防止」以外の局面として、障害者権利条約が「成年後見制度」に対して与えるインパクト、女性差別撤廃条約が「婚姻制度」(なかでも、婚姻適齢、再婚禁止期間、夫婦別姓)に与えるインパクトについて基礎的な調査を行った(その成果の一端は、学生向けの教科書に反映させたが、これは研究成果とはいえないことから、本報告書の研究発表欄には記載していない)。 また、同じく平成28年度に予定していた「損害賠償」の手法による私法の応答可能性に関して、《規制》の受益者による「利益吐き出し」型損害賠償請求の検討を行った。この作業には、研究代表者の所属機関に平成28年度に在籍した外国人招へい教員(講師)の協力を得ることができ、比較法的動向について協力して情報収集と意見交換に当たった。もっとも、立法論としての展開はともかく、解釈論として受け入れられるだけの議論が煮詰まっておらず、解釈論の提示には慎重を要するとの感触を得た。 さらに、契約規制(約款規制・内容規制)と契約連鎖(グローバル・サプライ・チェーン)に関する共同研究への参画を海外から求められたことを契機として、当初の計画の順序を入れ替え、平成29年度に予定していたこれらの検討に、前倒しで着手した。その成果の一端は日本の債権法改正及び消費者契約法改正に関連づけて口頭報告を行った。もっとも、グローバルな《規制》の観点からの分析まで本格的に踏み込むことはできなかったので、これはあくまでも初期段階での中間的報告にとどまる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた計画のうち、「労働」(特に児童労働)に関するグローバルな規制に対する私法の応答可能性については研究の進展をみせることができなかったほか、「腐敗行為(汚職)防止」についても、欧州の諸条約の詳細な検討を行うことができなかった。この遅れの原因としては、平成29年度に予定していた計画の順序を一部入れ替えて前倒しで実施したという事情もあるので、研究期間の2つの年度を通してみれば、必ずしも研究に遅れが生じているわけではないが、研究期間の初動期に行うべき基礎的な現状把握及び理論状況の把握に手間取っていることは否定できないことから、「やや遅れている」と区分した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、平成28年度に積み残した課題に取り組むほか、当初から平成29年度に予定していた課題(前倒しして平成28年度に行ったものを除く)に取り組む。もっとも、平成28年度の経験から、グローバルな《規制》に関する情報が予想外に断片化されていること(相互の関連づけがされていないこと)、そしてそのためその統合的理解に時間を要することが判明したため、研究の進展をみきわめつつ、平成29年度に計画していたワークショップの開催は、準備の熟さない時期に拙速に開催して成果の上がらない弊を避けるため、最終年度(平成30年度)の早い時期に実施する可能性も視野にいれる。したがって、平成29年度の最優先課題は、問題状況の把握と私法的応答可能性の理論に見通しをつけることということになる。具体的には次のとおりである。 1 グローバルな《規制》の展開について、基礎的状況調査及び理論状況の調査を完了させる。 2 そのようなグローバルな《規制》に対する私法の応答可能性について「腐敗行為(汚職)防止」についての論文を脱稿する。その際、特に欧州の民事法条約にも注目をすることとする。 3 グローバルな《規制》に対する私法的応答としての契約の効力否定に関して、OECD等における国際標準に照らした契約規制のあり方、及び、サプライ・チェーンを瓦解させない是正的な救済手段について検討を行う。
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Causes of Carryover |
平成28年度には、旅費等に使用する予定であった予算から237,823円を残すこととなった。その理由は、グローバルな《規制》の現状及び課題の把握について、情報が予想外に断片化されていること(すなわち相互の関連づけがされていないこと)、そしてそのためその統合的理解に時間を要することが判明したため、問題状況を把握することを最優先課題とすべきと考え、平成28年度に予定していた調査旅費及びインタビューにおける専門的知識の提供に対する謝金の支出を次年度に延期したことにある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
この残額については、グローバルな《規制》に関する基礎的な現状把握及び理論状況の把握を早い段階で行ったうえで、平成29年度後半において調査旅費及び専門的知識の提供に対する謝金として使用する。
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Research Products
(2 results)