2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K13338
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
熊野 直樹 九州大学, 法学研究院, 教授 (50264007)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナチス・ドイツ / 日本 / 「満洲国」 / 麻薬政策 / 阿片 / モルヒネ / コカ / 安楽死 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は昨年度に引き続き研究計画に従って、ナチス・ドイツの日本と「満洲国」との通商関係について、とりわけ日独のコカ貿易の実態について研究を行った。独「満」間の阿片貿易については、主に国立国会図書館憲政資料室蔵のGHQ/SCAP文書に依拠しながら、これまで実証的に明らかにしてきた。特に29年度においては、第二次世界大戦中における独日間のコカ貿易の実態について、上記のGHQ/SCAP文書を利用して明らかにした。 研究成果としてわかったことは、日本がナチス・ドイツに輸出したコカが、主に沖縄、台湾、そして硫黄島で生産されていたことである。特に硫黄島では第二次世界大戦中にコカの葉が大量に栽培・生産されていた事実も明らかにすることができた。本研究の成果は、29年度に論文として公表することができた。 さらに、ナチス・ドイツの麻薬政策、とりわけ阿片・モルヒネやコカインの取締政策についても阿片法の制定過程及びその実行過程を中心に研究を行った。その結果、麻薬の生産や消費が1920年代に比べて劇的に減少していた事実も明らかになった。また、ナチス・ドイツが戦時中に阿片・モルヒネやコカインをいかなる用途に利用していたかも分析した。その結果、障害者、特に障害児童の「安楽死」の際に、モルヒネが主に使用されていたことがわかった。その事実を踏まえて、ドイツの文書館で、とりわけイエナ大学大学文書館で障害児童の「安楽死」や強制断種に関連する史料を新たに発掘・収集することができた。また、モルヒネは痛みを知らず覚醒させる薬として、覚醒剤と混合して、戦場の兵士に投与されていたことも明らかになった。 当該年度の研究成果として、第二次世界大戦におけるナチス・ドイツの麻薬政策と日「満」との繋がりがより一層明確になったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在まで、主にナチス・ドイツの麻薬政策の実態と独「満」阿片貿易並びに独日コカ貿易の実態について実証的に検討を行ってきた。ナチス・ドイツの麻薬政策については、ドイツでも研究は少なく、近年では主にペルヴィティン(覚醒剤)に関する政策史研究が重点的になされてきた。それに対して本研究課題では、ナチス・ドイツの阿片・モルヒネ政策、とりわけその取締政策の変遷と実行過程について検討を行ってきた。さらには、コカ政策と独日コカ貿易の実態についても詳細に解明することができた。 ナチス・ドイツの麻薬政策については、20世紀ドイツにおける麻薬政策の変遷過程のなかでナチス・ドイツの政策を位置づけることができた。また、モルヒネ、ヘロイン、覚醒剤、コカインといった種々の麻薬別のナチス・ドイツによる用途も詳細に明らかにすることができた。 しかもこれまでの研究によって、独「満」の阿片貿易の実態を実証的に明らかにするだけでなく、従来全く知られていなかった独日のコカ貿易の実態の一部を史料に基づいて解明できたのは、これまでの研究の進捗状況から見ても、大きな進展であった。 予想外の進展として、独「満」及び独日間で取引された阿片やコカの葉が、ドイツ降伏後、ドイツ滞貨として日本が逆に輸入しており、それらが戦後どうなったのかが、史料的に解明できた点である。これらの麻薬は戦後のGHQの占領政策と密接な関係を持っていたことがこれまでの研究で明らかになった。戦後も射程に入れて、独「満」並びに独日間で取引された麻薬を考察する必要があることが判明したこともまた新たな発見であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題として、今後専ら推進していきたい点は、まず独「満」間で取引された阿片・モルヒネのゆくえである。これらの麻薬は、東南アジアにおいて、戦争に必要な物資、例えばタングステンや錫や生ゴムと物々交換された可能性がきわめて高く、この点を史料によって確認することが今後の課題といえる。物々交換されていたという状況証拠は幾つも存在するが、直接それを証明する貿易決済書や取引記録等の史料の発掘が重要となる。 次に今後の課題として指摘できるのが、独「満」・独日間で取引された阿片やコカのドイツでのゆくえである。実際に「満洲国」や日本から輸入された阿片やコカがドイツにおいていかなる用途に使用されたのかを明らかにする必要がある。特にモルヒネは、ホロコーストや障害児童を含む障害者の「安楽死」にも利用されており、これらのモルヒネと「満洲国」からドイツが輸入した阿片との関係を史料によって検証することが今後の課題である。 以上の研究を遂行するには、引き続きドイツや日本の文書館での史料調査と収集が重要な方策となる。障害児童の「安楽死」とそこで使用されたモルヒネの来歴については、障害児童の「安楽死」の当時の中心施設の一つであったイエナ大学において引き続き史料調査を行う予定である。モルヒネの納入書等の史料の発掘もまた重要な課題となる。 また、麻薬のうち阿片・モルヒネ・コカの貿易ルートはかなり解明できたが、覚醒剤の原料である麻黄の貿易ルートは現時点では十分には明らかではなく、これらの関連史料の発掘も重要な課題といえる。これについては、日本の文書館・図書館での史料調査が重要な方策となる。
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Causes of Carryover |
当該年度においては、海外で史料調査を行った際に、本旅費を使用する予定であったが、他の予算を使用した。そのため次年度使用額が生じることになった。次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、国内外の史料調査並びに研究会報告のための旅費として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)