2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K13338
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
熊野 直樹 九州大学, 法学研究院, 教授 (50264007)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナチス・ドイツ / 「満洲国」 / 日本軍政 / 蘭印 / 馬来 / 阿片 / 戦時重要物資 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は前年度に引き続き研究計画に従って、ナチス・ドイツと日本と「満洲国」の通商関係について研究を行った。その際、とりわけナチス・ドイツが「満洲国」から輸入した阿片、いわゆるナチ阿片と蘭印・馬来を中心とした日本軍政下の南方占領地域との関係について実証研究を行った。特に当該年度においては、ナチ阿片が第二次世界大戦中に蘭印に輸出されていた事実が明らかになった。しかもナチス・ドイツは日本軍政下の蘭印や馬来から錫、ゴム、タングステン等を輸入していた事実も明らかになった。 そもそも蘭印や馬来では、罌粟が気候上の理由から栽培できないため、インドやイランから阿片を輸入していた。日米英開戦後、日本軍が同地域を占領すると連合軍による海上封鎖によってインドやイランから阿片が輸入されなくなり、日本軍政は阿片不足に見舞われることになった。しかも日本軍の南方占領地域は、イギリスを始めとした旧宗主国の阿片専売制を踏襲しており、歳入の多くを阿片収入に頼っていた事実も明らかになった。そこにおいてナチ阿片が同地域に輸出されていたのであった。 以上の研究成果から導出された仮説は、日本軍の南方占領地域においては、ナチ阿片と戦時の重要物資とがバーター取引されていたのではないかというものである。実際に仏印と泰においてナチス・ドイツは戦時重要物資と仏印と泰が必要とする物資とバーター取引しており、日本軍政が財政上必要としていた阿片とのバーターは十分にあり得るといえる。この仮説の実証が今後の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで主にナチス・ドイツの麻薬政策の実態と日「満」独阿片貿易の実態について実証的に検討を行ってきた。ナチス・ドイツの麻薬政策については、モルヒネを主に障害児童に対する「安楽死」殺人に利用していた実態について、ドイツ側の研究文献や史料を中心にさらなる検討を行ってきた。注射による毒殺の際、薬品の中でもとりわけモルヒネが用いられるケースが多かった。これらについては、研究計画通りに順調に進展しているといえる。ただ殺害に使用されたモルヒネの出自については、第二次世界大戦中においてはトルコと「満洲国」である可能性が極めて高いが、その実証は今後の課題である。 また当該年度はナチス・ドイツの麻薬政策と日「満」に関する研究の一環として、近代日本の阿片政策に関する国内外の研究動向について詳細にリサーチを行った。その際参考にした文献は、英語、独語、中国語、日本語文献である。その結果、近代日本の阿片政策についての内外の最新の実証研究の現状と課題を正確に把握することができた。さらに独「満」日阿片貿易に関する実証研究の現状と課題についても最新の研究動向を把握することができた。 以上から現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると評価し得る。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題は、引き続き独「満」間で取引された阿片・モルヒネのゆくえを解明することである。これらのうちドイツへ直接移送された阿片・モルヒネは、ナチス・ドイツの麻薬政策において何に使用されたのかの解明が今後の課題となる。これらが障害児童や障害者の「安楽死」殺人に利用されたのではないかという仮説を検討することが主たる課題となる。 また他の研究課題として、ナチス・ドイツが「満洲国」から輸入した阿片が、日本軍政下の南方占領地域において、錫、ゴム、タングステンといった戦時重要物資とバーター取引されていたのではないかという仮説の実証が挙げられる。この点を史料によって確認することが課題である。バーター取引していたという状況証拠は既に幾つも把握しているが、直接それを実証するドイツと日本軍政との間の取引記録や貿易決済等の発掘が引き続き課題となる。これらを実証するには、日本軍政下の南方占領地域の阿片専売制の実態や阿片取引及び貿易の実態を史料によって明らかにする必要がある。 以上の今後の課題については、日本の文書館・図書館での史料調査が引き続き重要な方策となる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、海外出張を予定していた時期と所属する部局の移転が重なったためである。しかも申請者は、所属部局の移転の責任者であり、移転が完了するまで海外に出張できなかったことによる。 次年度使用額は、主に旅費として使用する予定である。次年度は主に国立国会図書館憲政資料室や愛知大学図書館での史料調査・収集を予定している。旅費以外には、主に当該研究テーマに関するドイツ語文献を購入する予定である。
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Research Products
(4 results)