2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K13341
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
久米 郁男 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (30195523)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
曽我 謙悟 京都大学, 公共政策大学院, 教授 (60261947)
境家 史郎 首都大学東京, 社会科学研究科, 准教授 (70568419)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 政治学 / 江戸幕藩体制 / 計量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、江戸時代における大名家の「統治体制」の成立を、大名家が大名個人の「家」から、家臣団がそれぞれの分限にしたがって帰属する「公的」な共同体たる「御家」といたる変化と捉えて、そのプロセスを実証的に解明し、その意義を検討することを目的としている。2017年度は、前年度に引き続き①「新しい歴史分析」の関連業績の理論的整理、②大名家の統治体制に関する先行研究の整理を行った。とりわけ、本年度はアメリカやヨーロッパの政治学会において近年注目される統治体制形成に関する計量的歴史分析の業績のなかでも、Blaydes&Chaneyによる封建革命とヨーロッパ君主の在位期間に関する研究やKokkonenn&Sundellによる長子相続と君主制の存続可能性に関する研究など江戸期への応用可能性の高い論文を検討してその延長上に我々の研究デザインを構築する方向が定まってきた。 それと平行して、③我々プロジェクトの従属変数である統治体制変容の計量分析の前提となる各大名家・諸藩の統治体制データの構築を行うための手がかりとして、工藤編『江戸時代全大名家事典』などの2次資料を利用してデータベースの作成を進めた。そこでは、既存の二次資料の中でどのような事項がクロスセクション・タイムシリーズ計量分析に変数として利用可能かの検討を引き続き行いつつ、データ構築作業を行った。 現在のところ、江戸大名3576名中2584名まで、家名、藩主名、藩名、石高、出自(父母)、出生地(判明しているもののみ)、生年、没年、家督相続年月、官位、官位叙任年、退任年月、退任理由、幕府要職、要職就任年についての入力が完了している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究において検証すべき具体的な仮説構築については、上記実績概要にも記したように、アメリカやヨーロッパの政治学会において近年注目される統治体制形成に関する計量的歴史分析の業績のなかでも、Blaydes&Chaneyによる封建革命とヨーロッパ君主の在位期間に関する研究Kokkonenn&Sundellによる長子相続と君主制の存続可能性に関する研究など江戸期への応用可能性の高い論文を検討してその延長上に我々の研究デザインを構築する理論仮説の設定は順調に進んでいる。また、我々プロジェクトの従属変数である統治体制変容の計量分析の前提となる各大名家・諸藩の統治体制データの構築を行うためデータ構築の手がかりとして、工藤編『江戸時代全大名家事典』などを利用しつつ、利用可能なデータベースの構築を行う作業は着実に進行している。しかしながら、個々の事例について必ずしも一義的に明確でない記載などについて、他文献とのクロスチェックを行いデータとして入力する作業に予想以上に時間がかかっている。そのため、とりあえずは各大名家についての基本データのみに絞り込んでのデータ構築を行っている。他方、我々の分析における独立変数となる各藩に関する経済指標のデータ化については、データの利用可能性において困難があることが分かり、その解決に向けての各大名家に関する質的な記述を踏まえてその定量化を行っているが、その作業は従属変数のデータ化以上に時間を要している。基本的に、作業の進行方向は明確になっているが、作業時間が予想以上にかかることが遅延の主たる理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2018年度においては、以下の3点に注力し最終的な研究の完成へと努める。 ①事例分析的手法で類型化した統治体制の変容パターン、たとえば、御家騒動の原因における主従対立型、重臣間対立型、新旧家臣対立型、御家騒動経過の特徴に基づく主君廃立・強制隠居型、武力誅伐・個別処罰型、徒党退去・調停退去型、そして解決の態様の特徴による幕府関与型、一門談合型、藩内解決型(福田2005)の背後にある因果メカニズムにつき、ゲーム理論的な分析を行い、演繹的にその背後にある因果メカニズムに関する仮説の構築を行う(Bates 1998)。 ②大名家の統治体制を説明するための社会経済変数、統治体制がもたらす政治経済的影響に関する変数を検討し、そのためのデータ整備を行う。これに当たっては、地方史研究協議会編『近世地方史研究入門』などを手がかりに作業を行うとともに、工藤編『江戸時代全大名家事典』等における先行文献の質的記述を定量化することなどの対策を講じデータ構築を目指す。 ③御家騒動の出現や藩政改革の実行などを手がかりに、それらのイベント出現を従属変数として、イベントヒストリー分析や生存分析などの計量分析手法を用いて、統治体制変容に関する時代的趨勢、背景にある因果メカニズムの解明を、「新しい歴史分析」の理論仮説から導かれた観察可能な含意、帰納的な事例研究および上記①における演繹的分析によって構築した仮説を検証する形で行う。
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Causes of Carryover |
江戸大名に関する基本データの完成を2017年度に予定しており、その第1次分析を踏まえて江戸期についての研究を行っている歴史家を招いてのブレーンストーム的な研究会を計画していたが、データ作成が送れているため、その開催を次年度へと先送りした。その結果、招聘費用が繰り越しとなった。最終年度には、この開催を行うことにしている。
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