2016 Fiscal Year Research-status Report
次世代3次元建築情報プラットフォーム(BIM)とプロジェクトマネジメントの研究
Project/Area Number |
16K13386
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
泉 秀明 山口大学, 技術経営研究科, 教授 (10595698)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | BIM / 取引コスト理論 / 建築プロジェクトマネジメント方式 / 限定合理性 / 機会主義 / 情報の非対称性 / 3次元設計とデジタル情報 / 組織間の信頼 |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度の研究においては、建築プロジェクトのマネジメントシステムに対して、新制度派経済学の取引コスト理論を適応することにより、建築プロジェクトのマネジメントシステムにおける3つの基本的モデルの存在理由が明らかにされた。この仮説に依れば、プロジェクトの「オーナー」「コントラクター」間で発生する取引コストを、様々なコンテキストにおいて、オーナーが節約しようとすることで、様々なプロジェクト・マネジメントシステムが発生することを説明することが出来る。建築プロジェクト・マネジメントシステムの多様性が、経営学的な分析視点で捉えられたということで、建設経営学上における大きな貢献であると捉えられる。 筆者は、28年度における研究実績を中心に幾つかの論文を纏め神戸大学大学院経営学研究科における博士論文として提出し、博士号を取得した。(博士論文名:日米建築業におけるプロジェクト・マネジメントの研究 取引コスト理論と比較歴史制度分析の視点から)担当教官である神戸大学の三品教授の評価を抜粋すれば、“本学位論文は、これまで経営学で取り上げられることが少なかった建築業界に光を当てたものである。建築業は、製造業が高度に制御された工場環境のなかで大量生産を実行するのと異なって、絶えず移ろう作業条件のなかで一品生産に従事する。経営学は主に製造業にフォーカスしてきたが、建築業はその対極に位置するため、とりわけ研究の対象に加える意義は大きい。・・・・・”とある。 更に、取引コスト理論を包含する複合的な理論である比較歴史制度分析を、日米のプロジェクト・マネジメントを中心にして適応することにより、日米建築業の生産制度の違いにまで踏み込んで明らかにした。 博士論文は、今年度10月に神戸大学学術成果リポジトリ―にて公開される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H28年度においては、“BIMは建築プロジェクトのマネジメント方式をコスト最適化する。”という仮説を証明するための理論的基盤を構築することが目的であり、取引コスト理論とコンストラクション・マネジメントの先行研究を基に、暫定仮説の構築を行うことが主たる内容であった。文献調査、並びに自ら実施した建築プロジェクトの事例分析等を通じて、以下の暫定仮説を構築した。 1.取引コスト理論適応し、建築プロジェクトのマネジメントシステムを、「オーナー」「コントラクター」間で生じる取引コストを節約するガバナンスを持つ資源配分システム(市場的、中間組織的、組織的資源配分システム)と仮定すれば、設計と施工を市場取引、組織内取引のいずれかの組み合わせとすることでプロジェクト・マネジメントシステムに3つの基本的モデル、「設計・施工方式」、「設計・施工分離方式」、「コンストラクション・マネジメント方式」が存在することを説明することができる。 2.「オーナー」「コントラクター」間に生じる取引コストは、建築プロジェクトの資産特殊性、複雑性、不確実性、取引頻度等の取引特性によって影響を受けるが、相互の信頼によって節約される。「設計・施工方式」が、日本で実行される建築プロジェクトの過半数において採用される大きな理由は、「オーナー」「コントラクター」間に信頼を重視した組織間関係が構築されているからである。設計と施工が同一会社によって行われても、「コントラクター」は「オーナー」との信頼に基づいて、施工管理と設計監理を内部的に機能させることで取引コストを削減する。 3.Building Information Modeling(BIM)がもたらす、3次元設計と様々なデジタル情報は、建築プロジェクトのステークホルダー間の限定合理性、機会主義、情報の非対称性を緩和し、信頼構築を促進することで取引コストを減少させる。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度の研究成果によって、本研究の理論的基盤はほぼ確立された。“BIMは建築プロジェクトのマネジメント方式をコスト最適化する。”という仮説を導くための暫定仮説を導くことが出来た。H29年度の研究は、理論的側面から実践的側面へと対象を変更する。主たる施策は以下の通りである。 1.BIMに関する日本企業での使用状況と技術戦略に関する実情調査:経営戦略論で用いられる戦略グループの概念を導入して、研究対象となる日本の建設関連企業50社(住宅建設グループ、ゼネコングループ、設備工事会社グループの各会社、設計事務所、ディベロッパー等。)に対する調査を実施する。実施した調査結果から、BIM使用の実態と売上高営業利益率を代表とした経営指標との因果関係、相関関係等を調査する。現在までの調査では、準大手、中堅ゼネコンがBIM導入に関して遅れており、場合によっては、特定会社の事例調査に変更する可能性がある。 2.BIMに関する米国企業での使用状況と技術戦略に関する実情調査:日本企業に対して行った同様な調査を複数の著名米国企業に対して実施する。資料の入手に限界がある場合には、同様に対象会社を限定して事例調査に変更する。 3.BIMの最先端技術調査:毎年、8月に米国(開催地は未定)で開催される、BIMの国際会議に参加すると同時に、最先端の研究を実施している、Architectural ,Engineering Schoolを訪問調査する。訪問予定大学は、コンストラクションマネジメントコースのあるミズーリ州のワシントン大学セントルイス、並びに、ジョージア工科大学を予定している。(大学は変更される可能性あり。) 国際会議を含めて、3回ほどの研究成果の発表を実施する。
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Causes of Carryover |
予定していたBIM関連の書籍購入をしなかった。昨年度は、主に建築プロジェクトのマネジメントに関する理論構築を行うために、参考文献は経済学、経営学関連の書籍であり、工学的な参考文献は必要とならなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用金額は、当初、京都大学古阪教授との打ち合わせに使用する予定であったが、本年度の予算でカバーできるため、BIM関連の書籍購入に使用する予定である。 購入予定書籍は以下のとおりである。BIM その進化と活用 建築を目指す人、BIMに取り組む人のガイドブック ¥2,808 ; BIM/CIMワールド~BIM/CIMモデル活用を広げる最新技術 ¥2,707 ; ArchiCADで始めるBIM設計入門[基本・実施設計編] ¥4,104;BIM/CIMワールド~BIM/CIMモデル活用を広げる最新技術 \2,707 ; BIM Disruption 2016: The Disruption of Interoperability (English Edition) \1,270 ; BIM - Modellazione elettronica delle informazioni edili per un’edilizia sostenibile: Con la prefazione di Anna Moreno \3,888
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