2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K13832
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
内藤 方夫 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40155643)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
迫田 將仁 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80735556)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導体 / 単原子層薄膜 / 分子線エピタキシー / 電気二重層トランジスタ / トンネル分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄砒化物(FeAsを超伝導層とする物質)超伝導体は、2008年に東工大・細野グループにより発見され、発見からわずか二ヶ月でTcの最高値が56Kにまで達した。一方、東工大グループの報告直後に、台湾のWuらによって、鉄カルコゲン化物Fe(Se,Te)でも超伝導が発見された。この物質は電荷中性のe(Se,Te)がファンデルワールス力によって積層している。古くから知られる物質だが、Feを含むために超伝導性は調べられていなかった。当初、Fe(Se,Te)のTcは高々15Kと考えられていた。2012年に、中国グループからSrTiO3基板上に分子線エピタキシー(MBE)成長した単原子層FeSe膜で、Tcが77Kに達するという報告がなされた。この状況の中で、本研究はMBE法によりFeSe単原子層膜を成長し、液体窒素温度を超えるTcを目指す。 平成28年度は、当初研究計画にも書いたように、まず、鉄カルコゲン化物薄膜成長専用の小型真空チャンバの製作を行った。既存の小型真空チャンバを改造し、鉄・セレン・テルルの3元素を同時蒸着可能な簡易MBE装置の制作を行った。小型チャンバのため、各元素の分子線フラックスの制御装置や反射電子線回折装置等がなく、成長の再現性が十分ではないが、現在までに超伝導を示すFe(Se,Te)薄膜の成長、および、10 nm以下のFeSe薄膜の成長に成功している。但し、FeSe超薄膜は未だ超伝導化していない。一方、ごく最近、日本を含む複数の研究機関から、電気二重層トランジスタ(Electric Diploe Layer Transistor: EDLT)により電子注入したFeSe超薄膜が超伝導化する(Tc~40K)という報告がなされている。当初計画には含めなかったが、共同研究者の迫田が、EDLTによるFeSe超薄膜の電界ドーピングの研究を始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度当初計画では、以下の2点を実施する予定であった。 (1)簡易型の分子線エピタキシー法を作製し、それにより、単原子層~数原子層のFeSe・Fe(Se,Te)薄膜の成長を行う。 (2)得られた単原子層~数原子層に保護層として非超伝導FeTe膜を堆積し大気中に取り出し、超伝導性を直接評価する。 (1)は完了し、(2)については超伝導を示すFeSe超薄膜が未だ得られていない点で進捗は不十分である。 一方、当初計画にはなかった新たな研究テーマへの展開も始めている。概要でも述べたように、昨今、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタ(EDLT)によるFeSe超薄膜の超伝導化がホットなテーマになりつつある。EDLTを用いると、キャリヤ注入だけでなく、電界強度・電界印加温度によっては、薄膜をエッチングすることも可能で、エッチングして原子層数を減らしながら超伝導性を評価するといったことも可能になる。共同研究者の迫田がこの方向への新たな研究展開を図っている。物質としては、FeSeだけでなく、鉄砒化物の母物質SmFeAsOに対しても試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、平成28年度に達成できなかったFeSe単原子層薄膜の超伝導化を実現する。単原子層薄膜の作製法としては、当初計画通りFeSe単原子層膜を成長してFeTe保護層をのせるボトムアップ的な方法と、当初計画にはなかった電気二重層トランジスタ(EDLT)によってエッチングするトップダウン的な手法を併用する。これによりTcの層数依存性を明らかにする。 さらに、FeSe超薄膜の高Tcのメカニズムも明らかにする。中国グループの研究によると、超伝導となる単原子層膜はバルクのFeSeと異なる電子状態を有することがわかっている。単原子層膜ではバルクのFeSeに見られたガンマ点のホール面が消失し、エム点の電子面が肥大化している。これは、FeSe膜に電子ドープがなされていることを示唆している。ガンマ点のホール面が消失していれば、正孔フェルミ面と電子フェルミ面間の磁気散乱によるs+-ペアリングは原理的に起こらないため、スピンゆらぎによる超伝導発現機構を排除することができる。EDLTによる電子注入と正孔注入で超伝導の電子・正孔対称性が破れていることが確認されれば、上記の推測に対する強い証拠となる。 また、簡易プロセスによりトンネル接合を作製し、接合特性の微細構造からペアリングの糊付けをしているボソンを明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究実績の概要にも書いたように、FeSe単原子層膜成長のために、既存の小型真空チャンバを改造し、鉄・セレン・テルルの3元素を同時蒸着可能な簡易MBE装置の制作を行った(当初から計画していた装置の製作)。この際、チャンバ改造を最も安価かつシンプルな設計に変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の研究の推進方策の欄に書いたように、共同研究者の迫田が、FeSe単原子層膜の新たな展開として、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタ(EDTL)によるFeSeのエッチング・ドーピングの研究を始めている。2017年度使用額は、この新しい研究の物品購入に充てられる。
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Research Products
(1 results)