2016 Fiscal Year Research-status Report
分子近接場振動分光法によるタンパク質局所ナノメートル構造ダイナミクス計測法開発
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16K13933
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水野 操 大阪大学, 理学研究科, 助教 (10464257)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子近接場振動分光法 / ヘムタンパク質 / 対称性 / 局所構造観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、最近見出された「分子近接場振動分光法」をもちいて、ヘムタンパク質の補欠分子族であるヘムに近接するナノメートル領域にある分子運動を観測する手段を確立することを目的とする。分子近接場効果は、対称中心を持つ分子における分子間振電相互作用を利用した共鳴ハイパーラマン過程において観測される。ヘムタンパク質において分子近接場振動スペクトルを観測するために、対称中心をもたないヘムから、対称中心をもつエチオヘムを補欠分子族として再構成したミオグロビンをもちいる。 平成28年度は、有機溶媒をもちいた溶液中のヘムとエチオヘムの共鳴ハイパーラマンスペクトルを測定し比較した。エチオヘム溶液の共鳴ハイパーラマンスペクトルには、ヘム溶液のスペクトルに観測されないバンドが観測された。このバンドの振動数は、溶媒の赤外吸収バンドの振動数に近く、さらに同位体置換した溶媒をもちいて測定したスペクトルではシフトした。このことから、分子間振電相互作用により、エチオヘムの共鳴ハイパーラマン過程において、周辺溶媒分子の共鳴ハイパーラマン散乱を引き起こすことがわかった。 つぎに、タンパク質中でヘムの対称性が保たれているかを調べるために、天然のミオグロビンとエチオヘムを再構成したミオグロビンにおけるヘムの共鳴ラマンスペクトルを測定した。その結果、タンパク質中においても、通常のヘムは対称中心がないが、エチオヘムは対称中心を持ち、高い対称性を保つことが明らかになった。共鳴ハイパーラマンスペクトルを観測した結果、エチオヘムで再構成したミオグロビンのスペクトルには、新たなバンドが観測された。現在、このバンドがタンパク質中のどのような構造に由来するのかを検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、対称中心をもつエチオヘムの共鳴ハイパーラマン散乱において、溶液およびタンパク質分子中ともに、エチオヘム分子周辺局所構造を反映する振動が、分子間振電相互作用により散乱光強度が増大することを確認することができた。これは、研究実施計画に沿っており、おおむね順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、エチオヘムで再構成したミオグロビンにおいて分子近接場効果により発生した共鳴ハイパーラマンバンドの帰属を行うとともに、タンパク質における時間分解分子近接場振動スペクトルを観測する。 ①タンパク質中の共鳴ハイパーラマンバンドの帰属 変異体作製によるエチオヘム周辺のアミノ酸残基置換や重水中でのスペクトルを比較し、観測されたハイパーラマンバンドがどのようなタンパク質構造を反映しているかを明らかにする。 ②時間分解共鳴ハイパーラマン散乱測定 ピコ秒パルスをもちいて、一酸化炭素(CO)結合形再構成ミオグロビンに光照射し、CO分子の光解離にともなうスペクトル変化を見出す。スペクトル変化に現れる局所構造変化の部位は、①で行う帰属をもとにする。スペクトルの時間変化から、どのくらいの速度で、どのようにヘム近傍局所領域の構造変化が起こるのかを調べる。 ③タンパク質ダイナミクスの新規計測手法の確立 時間分解共鳴ラマン分光法によるCO結合形ミオグロビンの光解離ダイナミクス観測は報告されており、本研究で得られた結果と比較・検証する。これにより、ヘムの光反応にともなうタンパク質ダイナミクスの新たな計測手法を確立する。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、分光測定にもちいたエチオヘム試料は、以前の研究で使用していたものを利用することができたため購入する必要がなかった。また、既存の分光装置をそのまま利用することで共鳴ラマン・共鳴ハイパーラマン測定ができた。このため、計上した予算を使用せずに済んだ。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
分光測定にもちいるエチオヘムは残量が少ないためあらたに入手する必要がある。これには、化学合成を行う必要があるため、試料合成や精製にもちいる器具の購入費用に次年度使用額を使用する。また、平成29年度は時間分解分光実験を行うために、あらたな光学部品の購入が必要であるため、その購入費用に使用する。
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Research Products
(8 results)