2016 Fiscal Year Research-status Report
D体核酸を鋳型にL体核酸を創製する非酵素的転写反応の開発
Project/Area Number |
16K14028
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷口 透 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (00587123)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 鏡像体 / 核酸 / 構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工のゲノムを有する生命創製の研究が盛んになりつつある。しかし、全てが鏡像体から成る生命の作成には様々な困難がある。科学の究極の目標の一つである鏡像の生命創製の第一歩として、本研究では酵素フリーの条件下でD体核酸をL体核酸に転写する初の反応の開発を行う。酵素フリーの条件下でのD体核酸伸長反応としては、活性化リン酸エステルを有する人工ヌクレオチドによる研究がOrgelやSzostakらによって盛んに研究されている。そこで本研究ではまず、活性化リン酸エステルを有するL体ヌクレオシドの合成に着手した。 L-アラビノースから多段階を経て、活性化リン酸エステルを有するL-チミジン誘導体の合成を達成した。なお合成の過程では、各合成中間体の構造解析(例えば、核酸塩基の導入反応におけるα、βの帰属)が困難であった。構造解析を簡便化することが本研究の遂行に資すると考え、赤外円二色性(VCD)分光法を初めて5員環糖に応用することによって、この問題を解決し、本成果をOrg. Lett.誌に報告した。 最初にデザインしたL-チミジン誘導体では、D体核酸を鋳型とするL体娘鎖の伸長を確認することはできなかった。通常の条件下では、D体核酸は右巻き二重らせんを、L体核酸は左巻き二重らせんを好む。そこで、両核酸の巻き方向をそろえることが本研究の達成に不可欠と考え、L体核酸のみ巻き方向を反転させる戦略を考案した。CDスペクトルやアニーリング温度の検討から、ある条件下ではD体核酸はL体の糖を含むオリゴヌクレオチドとも安定に二本鎖を形成しうることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初デザインした、活性化リン酸エステルを有するL体ヌクレオチドの合成を達成し、またその過程においてVCD分光法を用いた構造解析法の開発に成功した。本法は、5員環糖部分の立体配置のみならず、立体配座の解析にも有効であることを示した。核酸の5員環糖部分の立体配置(North型、South型)は、二重らせんのコンフォメーション(A-DNA、B-DNAなど)や生理活性にも影響することが知られているものの、その有効な解析法はNMRなどに限られていた。本VCD法によって、North型とSouth型の割合を高い信頼性で決定、2'-フルオロヌクレオチドのEast型構造の解明、なども可能だった。NMR法と補完的に利用できる新手法である。本VCD研究による成果は、本申請研究の目的達成における副次的な成果ではあるものの、Org. Lett.誌に掲載されるなどの評価が得られた。 一方で、D体核酸とL体核酸の巻き方向をそろえて二重らせんを形成させる方法論自体も新しい。核酸二重らせんの構造は歴史の古い研究テーマであるものの、依然不明な点も多く、本研究を通じて新たな知見が得られるものと期待している。
|
Strategy for Future Research Activity |
L-アラビノース、L-2-デオキシリボースから出発して作成したL体ヌクレオチドを用いてオリゴヌクレオチドを作成し、相補的配列を有するD体オリゴヌクレオチドとの二本鎖形成を確認し、CDスペクトル・アニーリング温度の検討を行う。このとき、L体ヌクレオチドにのみ修飾塩基を導入することによって、L体核酸の巻き方向を反転させやすくすることができるという知見が得られており、さらに別の修飾塩基についても研究を展開する。ここまでの知見について、本年度の前半を目処に論文報告する。 本知見を基に、活性化リン酸エステルを有するL体ヌクレオチドを再設計し、当初目標である伸長反応を行う。
|
Causes of Carryover |
平成28年度においては、当初計画通りL体核酸の伸長反応を検討するに至ったが、伸長を確認するまでに至っていない。このため、重合度の解析やfidelity(正しい塩基が組み込まれたかどうか)を検討するための機器の購入に至っていない。また、学会などへの出張も控え、実験・研究室運営を進めた、その分の差額も生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
ここまで得られた成果を各種学会にて発表するとともに、伸長反応に必要な各種機器・消耗品を購入していく。また、核酸伸長反応の検討においては学内共通機器であるMALDI-TOF-MSなどの使用が必要であり、このための使用料にも充てる。
|
Research Products
(2 results)