2016 Fiscal Year Research-status Report
ラットリングを示すペロブスカイト型酸化物薄膜の合成と熱電材料への応用
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16K14092
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 勝久 京都大学, 工学研究科, 教授 (80188292)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 酸化物 / ペロブスカイト / 高圧合成 / 構造解析 / 空間群 / 光第二高調波発生 / 熱分析 / イオン半径 |
Outline of Annual Research Achievements |
先に研究代表者らは、イオン半径の小さいCu2+がAサイト秩序型ペロブスカイト構造において12配位正二十面体サイトを占める、結晶化学、構造化学の観点から非常に珍しい化合物CuCu3V4O12を見いだし、Cu2+がラットリング現象を示すことを明らかにした。本研究では、この物質群を拡張すること、特に電気伝導率の高い酸化物を合成し、ラットリングから予想される低い熱伝導率との組合せで高い変換効率を持つ熱電材料の開発に展開することを目的としている。上記の新物質CuCu3V4O12の電気伝導率は実用的な観点からは十分でなく、高い熱電変換効率を実現するためには、まず電気伝導率を高める必要がある。そこで平成28年度は、Cu2+にはラットリングの役割を担わせたまま電気伝導率を向上させる目的でBサイトをNbが占める化合物の合成を試みた。 CuNbO3組成を高温高圧下での固相反応により作製し、X線回折、熱重量・示差熱分析、光第二高調波発生の測定を行った結果、これまでに報告されている相とは異なる2種類の新しい多形が見いだされた。そのうちの一つの化合物について空間群の決定を試みたところ、この準安定CuNbO3の結晶構造は反転対称性を持たず、ニオブ酸リチウム型に関連した極性空間群に帰属できることが明らかとなり、単斜晶ペロブスカイト型がもっともらしい構造であることが示唆された。 さらに、この化合物の熱分析とX線回折の結果から、単斜晶ペロブスカイト型CuNbO3は高温で分解し、CuOと立方晶の酸化物Cu1-xCu3Nb4O12に変化することが見いだされた。後者はAサイトに欠陥を持つAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物である。この反応プロセスは新規性のあるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度はCuNbO3組成の化合物を高温高圧で処理し、CuCu3V4O12と同様のCu2+が12配位正二十面体サイトを占めたAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を合成することを試みた。固相反応を行った温度と圧力の条件では目的とする構造の化合物は得られなかったが、合成条件に応じて2相の新規酸化物を合成することに成功した。そのうちの一つの化合物についてX線回折を用いた詳細な結晶構造解析を行い、空間群の帰属を試みた結果、生じた化合物が極性構造を持つことが明らかとなった。極性構造は光第二高調波発生の事実からも実証された。つまり、本化合物は新規の圧電体であり、このような化合物を合成することは本研究の本来の目的とは異なるものの、とりわけ非鉛系圧電体の実用的見地からの重要性を考えれば、その圧電特性には大いに興味が持たれる。これは予想しなかった新しい知見である。 また、この準安定な極性結晶CuNbO3を熱処理すると、CuOと同時にAサイトの一部が欠損した立方晶のAサイト秩序型ペロブスカイトCu1-xCu3Nb4O12が生成した。このCu1-xCu3Nb4O12は高温高圧合成から直接得られた化合物ではないものの、目的としていた新規のAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の一種である。このような観点から、平成28年度は研究目的の一部も達成し、研究は当初の予定通り進んだと判断できる。 さらに、CuNbO3の高温高圧での処理からは、上記のとおり極性構造を持つ新規化合物とは異なる構造を有した新たな化合物も見いだしている。この化合物の詳細な結晶構造解析や空間群の決定、さらには物性の評価などは今後の課題であるが、この新たな化合物が特異な物性や優れた機能を持つ可能性もあり、来年度以降の研究につながる成果であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はラットリングを示すAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物(具体的にはCu2+が12配位正二十面体サイトを占める酸化物)の新物質開拓に加え、電気伝導率の高い新規物質を見いだし、とりわけ、歪みエンジニアリングを駆使して新規ラットリング酸化物を薄膜の形状で得ることを目指している。初年度は新物質の開拓という点では進展があったものの、その組成を十分に拡げるには至っておらず、また、薄膜の合成にも着手できていない。そこで、平成29年度は、平成28年度の成果を踏まえてペロブスカイト型銅二オブ酸化物の研究をさらに進めると同時に、元素置換による新物質の合成、さらには薄膜成長の実験も実施する。前者は、新規ラットリング酸化物のCuCu3V4O12を得ることに成功した手法である高圧合成を利用する。後者はPLD法とミストCVD法を併用して薄膜合成の実験を進める。基板には、目的とする新規酸化物の格子定数を予測した上で、格子不整合で薄膜に圧力を印加できるような単結晶ペロブスカイト型酸化物を使用する。基板温度、酸素分圧、レーザーの出力といった条件を変えて薄膜合成を試み、目的とする酸化物を得るための最適条件を決定する。 得られた試料に対して、基本的に薄膜X線回折装置を用いて結晶構造解析を行う。詳細な回折実験が必要な場合にはSPring-8など放射光施設を利用する。放射光施設ではX線吸収分光も実施する。X線回折と広域X線吸収微細構造の測定から原子変位パラメーターやデバイ‐ワラー因子の温度依存性を見積もり、それを定量的に解析することでラットリングの程度を評価する。比熱の他、電気伝導率とゼーベック係数の測定を行う。前者により、本研究の大きな目標の一つである電気伝導率の向上に関して考察する。また、後者は熱電変換効率を評価する上で重要な指標となる。
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