2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K14161
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川野 聡恭 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00250837)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土井 謙太郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20378798)
辻 徹郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00708670)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子流体力学 / マイクロ・ナノデバイス / イオン閉じ込め効果 / 電気二重層 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,マイクロ・ナノギャップにおけるイオン電流の応答特性に基づくイオンの閉じ込め効果について,理論モデルによる予測と実験による検証を行うことを目的としている.研究期間に,イオン交換膜を用いて帯電した溶液を生成し,マイクロ・ナノギャップの電極間に電場を印加してイオンを引き込んだ後,外部電場を除去して正負いずれかのイオン群を閉じ込める方法を提案して実証する. 平成28年度は,電極間のマイクロ・ナノギャップを想定した空間一次元の非定常イオン電流について,我々が独自に開発してきた解析手法により,現象の理論予測と有効な実験パラメータの抽出を行った.電場存在下のイオン輸送において,電極間距離,塩濃度,温度および印加電圧が実験条件に含まれるパラメータとなる.現象を理解するため,イオン電流を記述するNernst-Planck方程式と,電場と電解密度の関係を与えるPoisson方程式を連立して解き,イオンが局在するための条件を調べた.これにより,電極に電圧を印加したときの応答特性と,電圧のon/offによりイオンの閉じ込めが生じることが予測された.電圧が印加された直後にイオンが一方の電極表面に集中し,続いて両電極が短絡されると,イオンがギャップに閉じ込められた定常状態が実現する.このとき,閉じ込められるイオンは,電極表面と内部電場により両壁面近傍で対称的に局在することが示された.イオンの閉じ込めを実測する前段階として,上述のパラメータの影響を調べた.特に,イオン電流の緩和時間を支配するパラメータとして電極間距離と塩濃度に注目した.ここで用いる電極は,テーパを持った同軸切頭円錐形のオス・メス型の対であることにより,電極間距離を連続的に可変とし,軸方向の変位に対して対面の電極間距離の解像度を向上させている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,電極間の微小な間隙におけるイオン電流の応答を支配するパラメータを見出すことを目標とし,理論的に予測して実験結果と比較検証することにより,現象の本質を明らかにした.Nernst-Planck方程式とPoisson方程式を連立することにより,イオン電流の非定常応答特性を理論的に調べた.切削加工により切頭円錐形の電極対を作製し,1μmから100μmまでの間隙を連続的に可変とした.イオン電流は,イオンの電気泳動と拡散によって支配され,両現象の時空間スケールは異なることが理論的に示されているが,その差異を明確にするため,電極と直列に外部抵抗をつなぎ,電極間距離と塩濃度をパラメータとして計測を行った.電極と電解質溶液からなるデバイスの持つ抵抗がおおよそ100Ωであることから,外部抵抗として10Ωと1000Ωの場合について比較した.外部抵抗を10Ωとした場合,直流電源により0.1Vの電圧を印加した直後,瞬時に電極間に0.1Vの電位差が生じてイオン電流の応答が得られた.電極間距離が小さいほど,塩濃度が高いほど応答が速いことが明らかとなった.電極間距離が短いことは,電圧印加直後の液中の一様電場が強いことからイオンにかかる力も強いことを意味する.一方,外部抵抗を1000Ωとして実験系に0.1Vの電圧を印加した場合には,印加直後には外部抵抗で電圧降下が支配的であるが,電気二重層の充電とともに電極間の電位差が上昇して0.1Vに漸近する.この場合,電極間距離が大きく塩濃度が高いほど応答が鈍くなることが示された.電圧印加直後には,熱揺動よりも小さい電位差であることから,電気泳動よりも拡散が支配的となり,塩濃度が高いほど拡散の影響を受けるイオンの数が多く応答が長時間継続するものと考えられる.当初の計画通り,微小ギャップにおけるイオンの振る舞いが理論と実験の両面から解明された.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに,切頭円錐形電極を用いて1~100μmオーダまでの電極間ギャップを連続的に可変とし,イオン電流の応答特性から電気泳動と拡散の時空間スケールについて切り分けて観測することを可能とした.しかしながら,1μmのオーダからそれ以下のギャップについて,電極対の中心軸のずれや切削加工による表面粗さ(200nm)のため,実験データのばらつきが大きく改善が必要とされる.そこで,100nmオーダのギャップにおけるイオン電流応答を得るため,ガラスまたはシリコン基板に金薄膜を成膜して平行平板電極とし,ピエゾステージを用いた電極間距離の精密調整を検討する.平成28年度は,塩化カリウムや塩化ナトリウムの水溶液を用い,溶液中に正負イオンが同数個存在する電気的に中性な環境下での計測を行ったが,次年度は正負いずれかのイオンが支配的に存在する電気的に偏りのある溶液中での計測を行い,イオンの閉じ込め効果を実証する.そのために,電解質溶液と超純水をイオン交換膜を用いて区切ることにより電解質溶液中のイオンを選択的に超純水側へ浸透させて帯電した溶液を生成し,それを電極間のギャップへ誘導する.たとえば,塩化カリウム溶液と超純水を陽イオン交換膜を用いて区切ると,カリウムイオンが純水側へ浸透して正に帯電した溶液となることが期待される.このような溶液を用いて,そのイオン電流応答とこれまでに得た電気的に中性な溶液との差異を明らかにする.さらに,帯電した溶液に電圧を印加して電極間に電荷を充電した後,両電極を短絡するとギャップ間にイオンが閉じ込められることが期待される.このとき,たとえばカリウムイオンが過多な溶液を用いた場合,相対的に溶液が正の電極が負の電位となって定常状態が得られる.この事実を確かめるため,銀/塩化銀電極を用いて溶液の電位差を測り,交流電場によるインピーダンス計測によりイオン濃度を解析する.
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