2016 Fiscal Year Research-status Report
発がんに関与する融合遺伝子形成における細胞融合の役割
Project/Area Number |
16K15262
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
田島 陽一 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (00300955)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 融合遺伝子 / 細胞融合 / 癌悪性化 / 抗癌剤耐性 / 癌幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
癌化は体細胞突然変異の蓄積や染色体分配異常により発生する説が主流である。しかし最近、組織幹細胞と正常細胞とが細胞融合を起こすことで癌原細胞の性質を獲得する報告がなされた。通常、生体内の細胞融合は抑制されているが、腫瘍形成時の慢性炎症や低酸素環境下では融合細胞が発生しやすい報告もある。 我々は骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)と膀胱移行上皮癌細胞UMUC-3とを細胞融合させてハイブリッドを作製した。作製した11種のハイブリッド(HB1細胞株)は親細胞にはない形質と新規融合遺伝子が形成される知見を得た。 本研究では、BM-MSCとUMUC-3膀胱癌細胞との細胞融合より形成された新規融合遺伝子の機能解析および新規獲得形質が癌の浸潤や転移に及ぼす影響を検討する。更に、癌化に伴う細胞融合をモニターできるマウスモデルを開発し、in vivoでの細胞融合を解析する。これらの研究は今後細胞融合を標的とした創薬に貢献できると考えられる。 現在、次世代シークエンスによるRNA-seq解析、抗癌剤耐性や癌幹細胞マーカーによる癌幹細胞の濃縮などを進めている。さらに、ヌードマウスへの移植実験もスタートし、HB1細胞の内幾つかはヌードマウス臓器への転移が確認された。さらに解析を進め、細胞融合により付加された抗癌剤耐性や転移に関わる遺伝子の同定を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、組織内で起きる細胞融合が前癌細胞形成や融合遺伝子形成により癌進行・悪性化、組織不均一性を引き起こすとの仮説に基づき、そのメカニズム解明を目指している。現在までの成果を下記に示す。 ウイルスのエンベロープ蛋白質VSV-Gを癌細胞に一過性発現させる方法にて、22種類の癌細胞株と骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)との細胞融合を行った。そのうち膀胱がん癌細胞株UMUC-3とBM-MSCとの細胞融合からハイブリッド(HB)1.1からHB1.11の11種の細胞を樹立した。FACS解析により、HB1細胞がGFP陽性BM-MSCとmCherry陽性UMUC-3の両蛍光蛋白質を発現すること、DNA含量が親細胞よりも増加していることが示され、ハイブリッドであることが確認された。 HB1細胞群の特徴としてはUMUC-3に由来するAndrogen receptor (AR)の発現とリガンド依存的な核移行が観察され、BM-MSCに由来するCollagen1やFibronectin1の発現および脂肪細胞への分化が確認された。親株と異なる性質として、HB1.1とHB1.6は癌幹細胞マーカーであるCD24とCD44の共陽性細胞が存在すること、HB1.7はCamptothecinなどの抗癌剤抵抗性を示すことが判明した。ヌードマウスを用いた皮下移植実験では、親株のUMUC-3は腫瘍は形成するが、転移は起こらない。しかしHB1.1は肝臓、肺への転移が起きる点は大きな違いである。 ヌードマウスにCreリコンビナーゼ遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(ヌードCreマウス)とCre-loxPシステムを応用した細胞融合リポーター発現させた癌細胞を使用して、生体内で起きる細胞融合の検出系を構築する。現在、ヌードCreマウスコロニーの拡充とリポーターを発現する癌細胞を樹立している。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者はBM-MSCとUMUC-3癌細胞との細胞融合により11種のHB1細胞株を樹立した。親株と11種のHB1細胞のRNA-seq次世代シークエンスを行った。現在、得られたビックデーターを解析中である。特にSOAPfuse解析で得られた22種の新規融合遺伝子の内、幾つかはRT-PCRでのバリデーションで再現性を確認できた。今後、新規融合遺伝子の機能解析と、RNA-seqで得られた遺伝子発現データを基にして、細胞融合により獲得された抗癌剤耐性および転移能に関与する遺伝子の同定とそのメカニズムの解明を試みる。 細胞融合により作製したHB1細胞株はハイブリッドであるが、蛍光蛋白質発現やDNA含量の増加により間接的に示せただけでゲノムレベルでは不十分である。そこで、ゲノムワイドにコピー数の変化を解析できるアレイCGHを用いて、親株と各HB1細胞株とのゲノム構造を網羅的に比較解析する。その結果、親株とHB1細胞株でコピー数の増幅や欠失に共通性や相違を明確にして、HB1のゲノム構造と新規表現型に寄与すると考えられる遺伝子群の同定に役立てる。
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Causes of Carryover |
金額が高価な牛胎児血清や抗体などの予算をほかの研究費から捻出したため、物品費が抑えられた。参加した日本分子生物学会が近接で行われたため、国内旅費も抑えることができた。これらのことから、当初予定していた金額よりも支出が抑えられた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度はCGHマイクロアレイ解析や次世代シークエンス解析の計画を実施するため、今年度の余剰分をそちらの予算に使用する。その他は予定通りに使用する。
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