2016 Fiscal Year Research-status Report
性差・国家の狭間の文学:英国女性科学者と英国人妻・娘による近現代日本の表象
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16K16786
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
雲島 知恵 奈良女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 講師 (50737434)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 旅行記 / 植民地主義 / ジェンダー科学史 / ジェンダー外交史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治以降、昭和初期の近現代日本を訪れた英国人女性と日本人との間の親密な関係を文学作品を通して描き出すことを目的としている。特に、日英同盟関係の締結から解消、2つの世界大戦など、複雑な政治的状況を背景に、如何に個人間の情動的関係が大勢と異なる言説を構築し得るのか、その可能性を、国家の周縁に置かれた日英異人種間結婚をした女性及びその娘達の視点、また当時先駆的役割を果たしていた英国人女性科学者達の視点から検証する。 研究初年度は、女性科学者2名Matilda Charlotte AyrtonとMarie Stopesに焦点を当て、資料の掘り起こし、分析を行った。分析の過程で両者の共通点として浮かび上がってくるのが、彼女達が女性/男性というジェンダー的二項対立のみならず、芸術/科学の二項対立も解消した活動を行っていたということである。来日を通して新たな文化に触れること、そこから湧き上がる他者への関心、また自らの見聞の自国への紹介という作業が、彼女達の学際的活動を支える一要因となっていた。対照研究として日本人女性科学者高良とみのRabindranath Tagoreの文学作品の翻訳活動についても追った。これらの女性科学者達の多分野での先駆的活躍を描き出すことは、科学史への女性の貢献を見直すという点で重要な作業である。 当該研究期間には、Yei Theodora Ozakiに関する資料収集も行った。Ozakiに関するThe Japan Times紙の記事、また英米雑誌上で彼女が発表した日本人女性に関する数々の物語からは、文筆家としてのOzakiが、欧米における日本文化大使として果たした役割、また日本人女性のイメージの是正のために奮闘した事実が読み取れる。また、東京都知事夫人として彼女が果たした外交的役割も、日本近現代における混血女性の政治的活躍を考察する上で、興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究関連資料の収集は順調に進んでいるが、分析がやや遅れており、発表・出版にまだ至っていない。遅延の理由は、当該研究期間に、本課題研究外の2本の論文(学術誌・学術書論文各1本ずつ)の執筆・編集等の作業が重なったためである。 当該研究期間中に、Ayrtonについては、旅行記Child Life in Japanやフランスで提出された博士論文"Recherches sur les dimensions generales et sur le developpement du corps chez les japonais"の他に、彼女に関する同時代の新聞・雑誌記事及び伝記的調査をまとめた研究論文を収集した。Stopesについても、A Journal from Japan、Plays of Old Japan: the 'No'を収集し、分析を開始した。高良とみについても、東京大学法学部附属近代日本法政史料センターで、彼女が対英米印外交関係で果たした重要な役割を示す興味深い史料を発見した。これらの資料から、当初から注目していたジェンダーという切り口のみならず、芸術/科学という切り口からも、彼女達の作品を分析することに決めた。 Ozakiについても、彼女の出版した日本関連本The Japanese Fairy Book、Romances of Old Japan、Warriors of Old Japan及び英米の雑誌に寄稿した短編作品"Aoyagi"、"Ono no Komachi"等も収集することが出来た。また、日本で彼女が出版した英語記事についてもThe New East等の雑誌の中に数本見つけることが出来た。これらは従来研究が進んでいない作品群であり、日本人の表象を研究する上で、貴重な資料である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、上記の英国人女性科学者Ayrton、Stopes2名の作品の読解を、日本人女性科学者高良とみの作品とも照らし合わせつつ、ジェンダー及び芸術/科学の二項対立という観点から分析していく。Stopesについては、国立科学博物館の桜井錠二資料も調査させて頂き研究したい。 同時に、Yei Theodora Ozakiの作品についても調査・読解を進める。後者については、11月に東京大学で開催されるシンポジウムでの研究発表を予定しており、それに間に合うよう資料の収集及び分析を進める予定である。特に、英国公使館夫人であったMary Crawford Fraserと協力し文学を通して行われた日米英外交活動は、大変興味深いものの一次資料を欠いているため、夏季休暇前に資料の所在を特定し、休暇中に資料収集を行う予定である。 これらの研究結果は、出版に向けて動いている博士論文にも反映させる予定である。
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