2017 Fiscal Year Research-status Report
性差・国家の狭間の文学:英国女性科学者と英国人妻・娘による近現代日本の表象
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16K16786
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
雲島 知恵 奈良女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 講師 (50737434)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 旅行記 / ジェンダー / 文学的外交 / 日露戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近現代日本を訪れた英国人女性と日本人との間の情動的関係を、文学研究を通して描きだすことを目的としている。特に当時社会の少数派ながら活躍した女性科学者、混血作家、外国人妻の作品に注目し、差異の境界線上で生まれる新たな言説の可能性を追っている。 研究開始2年目に当たる平成29年度は、Yei Theodora Ozakiの日本関連作品の分析を、世界史的・社会的、またOzaki個人の伝記的文脈の中で行った。明治初期の日本人留学生尾崎三良とBathia Catherine Morrisonとの間に英国で生まれ、後に尾崎行雄夫人となったOzakiは日本の風俗を紹介する雑誌記事や御伽噺の翻訳本を、英米両国で出版している。ニューヨーク公共図書館やハーバード大学図書館に保管されている出版社宛の彼女の書簡からは、彼女が日本、特に日本人女性の英語圏における正しい理解を深めるために為した努力、また、妻としての自己に甘んじず、文筆家として自立を図った姿が垣間見られる。出版作品において、Ozakiは日本人・英国人としてのアイデンティティの二重性を駆使し、時に異文化間の代弁者、また時に翻訳者として自己の言説に権威を与えている。この二重性は出版社によってマーケット的価値をも付与されていた。 さらに、アメリカ議会図書館には、OzakiとTaft大統領夫人との間に交わされた書簡が残されており、Ozakiが東京市長夫人として外交面でも活躍したことが分かる。東京からワシントンに送られた桜の陰には、国境を越えた女性の友好関係があった。太平洋を挟んだ女性による外交活動は、日露戦争時には文学作品を通して顕現する。Ozakiと並んで、Mary Crawford Fraser、Alice Mabel Baconなどの作家が日本人女性の戦争体験を描き、戦争未亡人への寄付を募る文学作品を英米で発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
担当していた共著本の1章の原稿の改訂に時間を取られたこと、出版に向けて動いていた博士論文の出版の話が本格化し、そちらの締め切りに向けても追加研究と改稿に時間を取られていることから、本研究の進捗状況は遅れている。しかし、本研究年度行ったYei Theodora Ozakiの研究については、予定通り研究発表も行い、研究書の1章として出版の話も進んでいる。 また、Ozakiについての研究を進める過程で、日露戦争との関連を検討する必要が出たため、最終年度に予定していた日露戦争関連の資料収集も一部本年度に前倒しで行った。それらの資料を最終年度により広い文脈の中で分析し、最終年度に論文として纏めたい。 研究初年度に収集したMarie StopesとMatilda Chaplin Ayrton関連の資料の分析についても、最終年度に行う予定である。特にAyrtonについては、当時彼女がエジンバラで出版した日本関連記事も特定出来たため、より多面的な分析が可能になったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
オックスフォード大学出版局から出版予定の単著の原稿執筆が終了次第、分析の遅れているMarie StopesとMatilda Chaplin Ayrtonの分析を開始し、論文としてまとめ学会等の場で発表すると共に雑誌論文として投稿したい。研究最終年度に予定している日露戦争関連の作品の分析については、上述の通りHerbert StrangのKoboやF.V. St. ClairによるLittle Jap Hornerの楽譜等の資料を既に入手済みのため、音楽学などの視点も含め学際的な研究を行う予定である。その上で日英間の外交関係のみならず、米国を含む日英米の関係を独露との対立関係の中で見ていきたい。 今年度行ったYei Theodora Ozakiに関する研究については、研究書の1章として出版される話が進んでおり、初稿の締め切りが平成30年12月に設定されているため、こちらに向けて発表原稿を修正する。その上で、英米女性作家による日露戦争の表象に注目したテクスト分析を行う予定である。 課題は、学術的研究を目指す上で、専門外である生物学、生態学等の資料価値の判断、また音楽学、美術史等についての知識をどう消化するかということであるが、学会での発表や、他分野の研究者の意見を仰ぎつつ進めていきたい。
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Research Products
(1 results)