2018 Fiscal Year Research-status Report
性差・国家の狭間の文学:英国女性科学者と英国人妻・娘による近現代日本の表象
Project/Area Number |
16K16786
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
雲島 知恵 奈良女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 講師 (50737434)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 旅行記 / ジェンダー / Mixed Race Studies / 女性科学者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人種、ジェンダー等の差異の狭間に置かれた英国人女性達による明治から昭和にかけての日本滞在記を、友愛と情動という視座から分析するものである。 研究開始3年目に当たる平成30年度は、昨年度のYei Theodora Ozakiに関する論文の執筆を進めるとともに、Marie StopesとMatilda Chaplin Ayrtonという先駆的女性科学者2名と日本との関連を、彼女達の日本関連出版作品及び未発表の書簡を通して追った。 Ozakiについては、Mixed Race Studies分野における研究成果と絡めて分析を進め、彼女の作品の、Anglo-Japanese作家による初期の文学作品としての価値を明らかにすると共に、出版作品と出版年、出版国を世界史的出来事と照らし合わせることで、作品におけるテーマの変遷を追い、Ozakiの作品の裏の外交的意図を明らかにした。Ozakiは、日露戦争時には、同盟国であった英国において戦国武家社会の女性達へ焦点を当てた作品を発表する一方、日露戦争以後、第一次世界大戦期までの間には、反日感情の高まる米国西海岸の雑誌において平安貴族階級の文化人の女性に焦点を当てた作品を発表することで、英語圏における文化的外交に貢献していた。 また、女性科学者と日本との関係については、大英図書館所蔵の書簡からStopesと天野文子との交流を突き止め、Stopesの『日本産児計画情報』への寄稿と戦後日本の混乱期における産児制限との関連を追った。更に、Stopesと東京ウィメンズクラブとの繋がり、またChaplin Ayrtonがパリで1878年11月20日に開かれた英米女子学生の集会において重要な役割を担っていたこと、ロンドンにおけるSomerville Club設立に関わっていた事等から、先駆的女性科学者にとっての女性クラブの意義について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
通常の大学業務に加えて、単著及び共著の担当箇所の原稿締め切りと重なり、本研究課題に取り組む時間を大幅に削らなければならなかったため、進捗状況は遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
Matilda Chaplin Ayrtonと女性クラブとの関連について更なる資料の発掘を目指すと共に、彼女が日本アジア協会における最初の女性発表者であることについても考察を進める。また、Marie StopesとChaplin Ayrtonによる文芸活動と日本との関連についても、分析を進める。 日露戦争に関する研究については、Yei Theodora OzakiやEthel McCaul、Mary Crawford Fraser、Eliza Ruhamah Scidmore、Alice Mabel Baconによる作品とHerbert StrangやTadayoshi Sakurai、David Fraserによる作品を比較し、ジェンダーや国家関係が作品に及ぼした影響について考察を進める。 その上で、最終研究年度については、学会発表や論文出版を通して、研究成果の発表に努めたい。
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Causes of Carryover |
単著及び共著の原稿執筆に時間を取られ、研究の進捗状況に遅れが生じたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、研究成果発表のための国際学会参加や研究を深めるための資料の収集及び購入に使用する。
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