2016 Fiscal Year Research-status Report
近世における井伊家旧領地間のネットワークに関する基礎的研究
Project/Area Number |
16K16903
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
夏目 琢史 一橋大学, 附属図書館, 助教 (00747842)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 井伊氏 / 由緒 / 寺社 / 地域社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、井伊氏の故郷(旧領地)である遠江国井伊谷と、彦根・与板藩の江戸時代における交流について具体的に検証しようとするものである。なお、ここでは井伊家ゆかりの地である長野県の高森地区や、群馬県の高崎地区などについても調査対象とする。 具体的な研究内容としては、井伊家文書を所蔵する彦根城博物館、徳川家康の関東移封後、井伊直政が一時期領知を有した高崎(箕輪)に関係する史料を有する群馬県立文書館、引佐(井伊谷)周辺の区有文書、彦根藩士の資料を所蔵する一橋大学附属図書館(青木文庫)などの調査を進めた。井伊家文書については、幕末に彦根藩士らがおこなった井伊谷調査についての詳細を記した文書を中心に分析し、その一方で、幕末の調査先となった引佐周辺の地方文書の調査(未整理資料の目録化を含む)を実施した。 それらの結果として、①近世の井伊谷に関する新たな資料群を確認したこと、②群馬県域において井伊谷との具体的な交流を示す史料は皆無であるが、一部に井伊家との由緒をもつ寺院があること、③さらに幕末になって彦根井伊家の藩士と井伊谷地方の住民との間に具体的な交流関係が生まれてきた経緯などについて確認することができた。今後はさらに史料についての分析を深め、江戸時代における彦根・与板・高崎・掛川・井伊谷などにおける人びとの交流について様々な角度から検証をおこなっていきたい。とくに、「藩」という領域や、身分を越えた人びとのネットワークの形成に、「由緒」や「歴史意識」がどのような役割を果たしたのかという点について考察を深めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた与板藩(掛川藩)の資料の調査が本格的にできなかったが、一方で近世の井伊谷に関する新たな資料群を確認することができたことや、未整理であった引佐地方の資料群を詳細に確認することができたこと、さらに彦根藩内における井伊家先祖故郷・井伊谷というイメージの生成過程についての経緯を具体的に把握できたことなどから、おおむね順調に研究が進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き、江戸時代における彦根藩と井伊谷地域との関係性について多方面から検証していく。また同時に、新潟県・長野県域での調査を進め、関連資料の収集も実施する。当研究に関係する史料は、他都道府県の文書館・博物館等に収蔵されている可能性もあるため、幅広く情報収集を行う予定である。井伊家・井伊谷とゆかりのある一族は、かなり広範囲にわっていることが予想される。井伊家との由緒をもつ家・寺社、あるいは民間の宗教者などについての情報を積極的に集め、その広がりについても把握を試みる。 次年度は、与板藩士・彦根藩士・井伊谷(引佐)住民との具体的な関係のみに終始せず、井伊一族と縁故の深い地域を中心に、民間レヴェルでのつながりについても分析を深め、中世(戦国期)の井伊家を媒介とした近世の人びとの具体的なネットワークの実態把握をめざしたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、引佐地方の調査において確認された古文書が想定よりも多かったため、その分析に時間をかけた。よって、当初予定していた新潟県(長野県)での調査を次年度にまわした。また、彦根城博物館における井伊家文書の調査の時期が遅れたため、その資料整理・翻刻作業(データの打ち込み)などに使う予定であった費用についても次年度に持ち越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、新潟県・長野県、そして豪徳寺のある世田谷・東京地区についても調査を進めていきたい。また、井伊家に対する由緒意識をもつ家、またはその資料の所蔵者の居住地も広範囲にわたっていることが想定される。よって、調査旅費とそれにかかわる物品費等に本年度の予算を繰り越して使用する予定である。
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