2017 Fiscal Year Research-status Report
流鏑馬の起源・成立過程の実証的再検討─鎌倉幕府儀礼の源流と東アジア文化─
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16K16911
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Research Institution | Takachiho University |
Principal Investigator |
桃崎 有一郎 高千穂大学, 商学部, 教授 (80551150)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 流鏑馬 / 武芸 / 武家儀礼 / 騎馬民族 / 礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
①共著の分担執筆「足利義嗣」(榎原雅治・清水克行編『室町幕府将軍列伝』、戎光祥出版、2017.10.10、pp.138-156)を公刊した。これは、足利義満の息子の一人義嗣の動向を洗い直すことで、義満が自分を中心とする新たな社会秩序やそれを表現する儀礼体系をどのように展開させようと構想していたかを論じたものである。本研究のテーマ「流鏑馬とは何だったのか」という問題は、武家儀礼全体を視野に入れるべきものであるため、足利義満期に中世の武家儀礼体系が一つの完成形を迎えることの意義は重大で、流鏑馬を含む武家儀礼がどのようなゴールへと向かっていったかを把握しておくことは、室町期に流鏑馬がなぜ廃れてしまったかを考える上で、不可欠の作業だったと考えている。 ②共著の分担執筆「古代における法と礼」「中世における法と礼」(高谷知佳・小石川裕介編著『日本法史から何がみえるか』、有斐閣、2018.3.10、pp.14-36,64-78)を公刊した。これは、日本の武家儀礼の根幹にある《礼》という規範が、そもそも日本の儀礼体系においていかなる役割を果たしたか、その前提として倭国段階のわが国が朝鮮半島経由で中国から《礼》を導入した時、わが国が《礼》を何であると理解し、何を吸収し、何を捨象し、法とのバランスをどこに求めたか、そしてその大前提として、古代中国において《礼》とはそもそも何であり、法といかなる関係に置かれてきたかを、儒教の経典や中国の史書の網羅的な調査、さらには殷代の甲骨文字まで遡って考察したものである。次の「現在までの進捗状況」で述べる理由により、この作業も本研究に欠かせないものだったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、中世武家儀礼体系における流鏑馬の存在意義を明らかにするため、流鏑馬の源流を古代日本・古代東アジアに遡って追究する予定であり、最初の二ヶ年で必要な史料の収集と整理・データベース化を終え、分析・考察を始めている。それらは順調に、計画通り進んでいるが、分析を進めるにつれ、本研究の上記課題を達成するためには、古代日本・古代中国において「礼」という文字で表現された理念・思想を理解せねばならないことが判明してきた。研究代表者は、おおよそ次のような筋道で、本研究の課題が当該分野研究の中に巨視的に位置づくと結論しつつある。 武家儀礼としての流鏑馬の存在意義を解明するには、そもそも武家にとって武芸型儀礼を行うことが何を意味するかを大前提として押さえておく必要がある。武家儀礼には、平安期朝廷から継受した儀礼があるため、平安期朝廷において武芸型儀礼を行うことの意義が分からねば、武家儀礼との継承関係や差異が判別できない。平安期朝廷が武芸型儀礼を行うことの意義は、そもそも朝廷において儀礼というものがいかなる意義を占めたかを大前提に考えねばならず、奈良・飛鳥時代へと遡って、わが国の朝廷が儀礼をいかなるものと理解していたか、その変遷を時系列的に追跡し直す必要がある。そして朝廷儀礼の多くが明白に古代中国からの継受である以上、そもそも古代中国で、武芸も含めた儀礼が占めた位置を理解しておく必要がある。そのように遡及して考えを進めた結果、中国では「礼」という文字が、ある一つの思想(規範の体系)を表していた事実に行き当たり、それがいかなる思想であるかを理解しておかねば、最終的に本研究の課題が達せられないこと、そして「礼」思想とは何かを明らかにした先行研究が存在しないことに気づいた。 そこで、申請・採択段階では想定しなかった派生的新テーマ=「礼とは何か」という問題の調査へと、作業の重点をシフトさせている。
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Strategy for Future Research Activity |
右状況をうけて、本研究は今後、「流鏑馬とは何だったのか」という本来の問題設定への解答に近づくために、派生的に生じ、しかも先に解決せねばならない新たなテーマ=「礼とは何か」という問題の追究に、本研究のエフォートの半分以上を割き、見通しを立てるべく調査・考察を追加的に行う方針である。もとより、それ自体が大きなテーマであるため、その問題と向き合わねばならないことを想定していなかった本研究の中では、十分な解答にたどり着けない可能性が高い。ただ、本研究を完遂する上でどうしても必要な基礎作業であるため、本来のテーマ「流鏑馬とは何だったのか」を常に念頭に置きつつ、流鏑馬を含む、より視野を広げた問題設定を次の研究で確立するに足る材料を確保すべく、右テーマの予備的調査・考察を可能な範囲で進めておく方針である。
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Causes of Carryover |
出張旅費として当初想定していた予算につき、想定よりも出張の回数が少なくて済んだため、当初計画を下回った差額が次年度使用額となった。 一方、本研究では、採択以前から所有し、また研究室に配備されていたPCなどを使用してデータ入力・分析を行っているが、PCの年式が古くなり、本研究を円滑に進められるレベルのマシンパワーに不足を感じ始めている。そこで、2018年度に、最新のPCを購入することを計画している。これに次年度使用額を充当する計画である。
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Research Products
(2 results)