2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後米国の太平洋戦略とグアム統治政策―米海軍政府の土地接収とチャモロ住民の対応―
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16K16933
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
池上 大祐 琉球大学, 法文学部, 准教授 (00633562)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グアム / 軍政統治 / 境界 |
Outline of Annual Research Achievements |
H29年度は、前年度にトルーマン州立大学図書館で収集したJohn Collier Papersの分析をすすめた。その成果は、アメリカ学会での口頭報告(2017年6月4日)、琉球大学法文学部人間科学科紀要『人間科学』に論題「第二次世界大戦後におけるアメリカ知識人のグアム認識-エスニック問題研究所(IEA)の言論活動を素材として―」とし結実した。 その骨子は以下の取りである。第二次大戦末期にジョン・コリアによって設立された「エスニック問題研究所」がグアムという米領植民地地域をどのように認識していたのかを、定期刊行物『ニューズ・レター』と『グアム・エコー』の論調を素材として分析するものである。IEAの活動初期はグアム住民の賃金や土地補償などの厳しい現状を拾いあげながら米海軍統治批判を展開した一方で、民政移行の具体化は米海軍の反対により進まなかった。しかし1949年3月の「グアム議会ボイコット事件」を契機に、「グアム基本法」の制定が優先事項として認識されると、その関連記事が上記機関紙に多く掲載されはじめ、グアム住民の状況に関する情報が見られなくなった。編集業務に携わったコーガンの回想記では「我々は海軍に勝利した」としているが、必ずしも同法案はグアム住民の声をすべて反映させたものではなかったことと1950年の同法施行以降も、土地問題等で厳しい状況が残されたことから、IEAの活動の意義を認めつつもそこには限界性も内包されていたと結論づけた。 また、研究成果のアウトリーチ活動の一環として、北海道の高校教員をお招きして、座談会「『境界(border)』からの歴史実践」を勤務校で開催した。米領グアムのみならず、沖縄、北海道を含めて「境界」という概念で包摂するときに、どのような比較の視座が得られるのか、そしてその成果を、歴史教育の現場でどう活かせるのかについて、聴衆者とともに議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、主にワシントンDCの公文書館での史料収集活動をおこなった。2年目の今年度は、その成果の一部として、学会報告・論文執筆をおこなった。 論文発表後、グアム軍政統治の実態の一側面に迫ることができると思われる史料群―アメリカ海兵隊部隊史料内に含まれているグアム部隊の「WAR DIARY」、アメリカ内務省史料に含まれている、アメリカ軍政府によるグアム統治に関する国連への報告書―の読解・解析を進めている。 すでにグアム議会議事録(1947-1950)は入手済であることから、米海軍軍政府の動向とそれに対するチャモロ住民の対応がどのようなものであったのかを、解明するための諸条件は整いつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定として、すでに以下2つの学会報告が決定している。 ・2018年5月11日:国際学術研究大会「東アジアにおける島、軍事基地、コモイズ」(於済州大学共同資源センター)。論題は「アメリカ海軍によるグアム軍政統治と軍事基地基、1944-46」 ・2018年9月29日:七隈史学会外国史部会での個別報告 これらの成果をもとに学術論文の執筆も進めていく予定である。
また、軍政統治期の米軍基地の拡大過程と土地接収の具体的な展開が直接的に読み取れる史料をまだ十分に発掘できていないので、ワシントンDCの国立公文書館や議会図書館等を訪問し、その収集・分析を進めていく。
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Causes of Carryover |
外部からの研究者を招へいする企画を年度末に試みたものの、都合等が合わず、その企画自体が延期となったことから、念頭においていた謝金としての執行ができなくなった。合わせて、学内執行期限を過ぎた物品費にも使用することができなかったことから、次年度使用額が生じた。翌年度は、最終年度でもあるので、より計画的に研究成果を披露する場の企画にも活用していく。
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Research Products
(2 results)