2016 Fiscal Year Research-status Report
新たな固体電解質の開発に向けた超イオン導電体の形成要因の研究
Project/Area Number |
16K17766
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
田原 周太 琉球大学, 理学部, 准教授 (80468959)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超イオン伝導メルト / イオン伝導 / 構造 / アニオン分極効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はまず、超イオン導電体として知られるCuIおよびCuI-AgI混合系の溶融状態について、イオン伝導率の測定を実行した。CuIのイオン伝導率は溶融相から超イオン導電相への凝固時に大きく下降し、AgIとは逆の振る舞いを示すことがわかった。AgIは超イオン導電相でIイオンが体心立方格子を形成する一方、CuIのIイオンは面心立方格子を形成する違いを反映している可能性が考えられる。超イオン導電体CuBrは凝固時にイオン伝導率が上がり、AgIと同様に体心立方格子を形成することが知られており、アニオンの副格子のタイプとイオン伝導率の凝固時の振る舞いはAgIと同じである。溶融CuI-AgI混合系のイオン伝導率の温度依存性のアレニウスプロットから活性化エネルギーEaを導出した。CuIの濃度の増加とともにEaも増加し、超イオン導電相の報告とおおよそ同様の振る舞いを示していることがわかった。 次に、SPring-8で測定した溶融CuBrの構造因子S(Q)を分子動力学シミュレーションで再現する試みを行った。剛体イオンモデル(RIM)と分極可能イオンモデル(PIM)の2つのモデルを実験結果と比較したところ、どちらもおおよそ実験データを再現したが、特にPIMの場合には低Q側に現れるfirst sharp diffraction peak(FSDP)と呼ばれるピークを再現することができた。このピークは液体中に中距離秩序が存在することを示している。Cuイオンの分布に対してcavity解析を行ったところ、PIMの場合はシミュレーションBOXの体積に対して17%程度の空隙が生じており、Cuイオンの分布に大きな揺らぎが生じていることがわかった。このことは、アニオンの分極による電気双極子モーメントが電場を発生し、それによりCuイオンの疎密を形成させていることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に詳述した通り、イオン伝導率測定から溶融相と超イオン導電相の関係性に一定の理解が得られた。イオン伝導率の測定は当初計画していなかったが、本研究とは別に進めていた実験環境整備が予期せぬタイミングで整ったため、本研究の目的遂行を加速させると判断し、実験を行った。その一方で、当初予定していた混合系の構造測定は次年度へ先送りすることになった。しかし、溶融CuBrの構造に関して、アニオン分極効果の知見を見出すことができた。それらすべてを考慮すると、本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
溶融貴金属ハライドーアルカリハライド系の構造因子を測定し、それらに対するアニオン分極効果を分子動力学シミュレーションから考察する予定である。また、溶融CuBrで成功したポテンシャルモデルを超イオン導電相に適用することで、これまで無視されてきた効果がどの程度、超イオン導電相に効いているかを研究する予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた混合系の構造測定が次年度へ先送りとなったため、実験にかかる費用が次年度使用額として生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
測定試料の準備にかかる費用、SPring-8でビームタイムを利用するための費用、実験旅費などに使用する計画である。
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Research Products
(5 results)