2017 Fiscal Year Research-status Report
確率論的手法による固体酸化物電解質膜におけるプロトンの量子ダイナミクスの解明
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16K18032
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
永島 浩樹 琉球大学, 工学部, 助教 (00759144)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | プロトン伝導 / 量子効果 / 固体酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体酸化物電解質内におけるプロトン伝導に対する量子効果の影響を明らかにするために、昨年度は研究計画に基づき、Nudged Elastic Band (NEB) 法により最小エネルギー経路を特定し、この伝導経路上におけるプロトンの量子効果について解析を行った。この解析より、プロトンの量子効果の影響は伝導経路により異なることが分かった。酸素イオン 周りの回転移動(経路1)に関しては、量子効果を考慮することてポテンシャル障壁が高くなり、酸素イオン間の水素結合の組み替えによる移動(経路2)におけるポテンシャル障壁は低くなることが分かった。さらに遷移状態理論に基づいてこのポテンシャル障壁より遷移率を見積もったところ、経路1の遷移率は量子効果により低下し、一方経路2では遷移率は量子効果により上昇することが分かった。つまり経路1では量子効果によりプロトンの伝導は低下し、経路2では上昇することを意味している。さらにこの遷移率よりプロトンの拡散係数を算出したところ、量子効果を考慮した場合の拡散係数は古典の場合の拡散係数とほとんど同じになることが分かった。この結果はプロトン伝導に対する量子効果の影響が小さいことを意味しているわけではなく、二つの伝導経路における量子効果の影響の現れ方が真逆であるため、それぞれの効果が打ち消し合うことで結果的に古典の場合とほとんど同じになったと考えられる。別途解析を行った、水素の拡散性に対する量子効果の影響に関する結果は、Journal of Chemical Physicsに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では経験的ポテンシャルを用いて解析を行っているが、結果の妥当性を確認するため量子化学計算の結果と比較を行った。この際に行った量子化学計算が予想外に時間が掛かってしまったことがひとつの要因である。さらに妥当性の検証の結果、経験的ポテンシャルを用いた結果と量子化学計算の結果が一致しなかったため、その原因を調べるため当初の計画にはなかった解析を行った。このためやや遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度得られた結果に基づいて、動的モンテカルロ(KMC)法をベースにプロトンの量子性を考慮した量子分子シミュレータを構築 する。当初の計画では量子トンネル効果についても考慮する予定であったが、遷移状態理論に基づいて考察を行ったところ、固体酸化物燃料電池の動作温度の範囲内では量子トンネル効果によるプロトン伝導はおこないと考えられるため、量子トンネル効果については考慮しないこととする。構築した量子分子シミュレータを用いて固体酸化物電解質膜中の巨視的なプロトン伝導現象に与える量子効果の影響とそのメカニズムを明らかにする。解析は幅広い温度条件と様々なドーパント、空孔、プロトンの割合において行う。この結果を古典的な遷移率とポテンシャル障壁の場合と比較することで、プロトンの量子効果が巨視的なプロトン伝導現象に与える量子効果の影響とそのメカニズムを明らかにする。
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Causes of Carryover |
(理由)大学院生への謝金として計上していた予算があったが;、本テーマを担当する学生が配属されなかったため、その分の差額が生じた。 (使用計画)差額として生じた謝金は、本年度に配属される学生に支払うか、もし配属されなかった場合は、購入した計算機を増強するためのパーツを購入する代金として使用する。
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Research Products
(3 results)