2016 Fiscal Year Research-status Report
分光技術を用いた捕食寄生者による甲虫の体色進化の実証
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16K18612
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
奥崎 穣 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 研究員 (40725785)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 動物生態学 / 進化生物学 / オサムシ / 分光計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の色は明るい環境で他の生物に見られることで進化する.これまで小動物の体色変異は視覚の発達した脊椎動物,主に鳥類からの捕食圧(淘汰)によって説明されてきた.しかし,この理論では,昆虫全体の体色の多様性を説明できない. まず,昆虫では体色の集団内多型が珍しくない.このことは体色への淘汰が弱いことを示唆する.体色への淘汰は暗い環境で減少するだろう.そのため,体色の集団内変異と生息環境の明るさ(放射照度)の関係を明らかにする必要がある.次に,小さく,堅い外骨格をもつ甲虫は脊椎動物の餌になりにくいと予想される.一方,甲虫を含め,多くの昆虫は捕食寄生性の昆虫(ハエ,ハチ)の宿主となり,これらの捕食寄生者も視覚を頼りに対象に接近する.甲虫の体色進化を研究するうえでは,脊椎動物だけではなく,捕食寄生者による淘汰も考慮する必要がある. 本研究は光環境,捕食者,寄生者に着目して,甲虫オサムシの体色進化メカニズムの解明を目的としている.オサムシの多くは夜行性で暗い体色であるが,高緯度地域では体色の種間,種内変異が大きくなる.北海道に分布するオオルリオサムシとアイヌキンオサムシの体色は,北海道北部では赤色に収斂するが,南部では大きい変異を示す.オサムシに対する脊椎動物の捕食圧は弱く,北海道北部ではオサムシの生息環境が明るい,あるいは捕食寄生者が多いと予想される.さらに2種の近縁種が樺太に分布することから,北海道北部の集団が祖先的と考えられる. そこでオオルリオサムシとアイヌキンオサムシを対象として1.捕食者の特定,2.体色と系統の関係2.体色と放射照度の関係,3.体色と寄生率の関係を調査する.本研究により,捕食寄生者への隠蔽色としての体色進化が実証できれば,視覚を頼りに行動すると考えられがちな昆虫において視覚の重要性が示され,昆虫間の情報伝達において新たな視点が確立されることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度はオサムシの捕食者を特定するため, 6月と9月に北海道支笏湖周辺の森林において,オサムシの生体130個体を用いて捕食者の観察を行った.その結果,8個体が夜間にタヌキとアライグマによって捕食され,1個体が昼間にカラスに捕食された.予想通り,オサムシへの脊椎動物からの捕食圧は弱いと判断できる.またオサムシの体色と捕食圧には有意な関係は検出されなかった.これは捕食されたオサムシの個体数が少ないことも原因の1つであるが,やはり主要な捕食者が夜行性で色覚の退化した哺乳類食肉目であるためと考えられる. 一方で,平成28年度は放射照度を計測するための機器(校正光源)を入手し,使い方を習得するのに時間を要した.また別の研究費(笹川科学研究助成)の採択されたことにより,夏に九州でのミミズの採集と飼育実験も行った.そのため,北海道各地でオオルリオサムシとアイヌキンオサムシを採集し,体色変異と系統,放射照度,寄生率の関係を調べることはできなかった. その代わり,2種の産地情報を北海道大学博物館や道内外の専門家から集め,採集地の選定を行ってきた.これらの種は地理的な分布が限定的であり,特に道南(渡島半島)ではその傾向が強い.標本や採集経験者からの情報を得られたことで平成29年度以降は効率的に採集を行うことができる.また,採集予定地の一部(大千軒岳)は自然保護地区であるため,行政(上川町)に採集許可を申請中である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は北海道各地でオオルリオサムシとアイヌキンオサムシの採集を行い,得られた標本の反射スペクトルを計測し,定量的に体色の地理的変異を評価する.また採集された個体のミトコンドリアCO1遺伝子の系統解析を行うことで,祖先的な集団とその体色を特定する.同時に,標本を解剖することで体色と寄生率の関係を明らかにする. ただし研究代表者のこれまでの経験から,オサムシにおける寄生バエの寄生率はそれほど高くない.そこで体色と寄生率の関係を明らかにするためには,寄生バエ成虫を用いた寄主選択実験が有効である.この行動実験のために,平成28年度の9月に北海道北部と南部の森林(朱鞠内湖と支笏湖周辺)で越冬前のオサムシを採集し,飼育下で寄生バエ成虫の入手を試みている.しかし,越冬中に死亡したオサムシから寄生バエの幼虫は得られているが,それらを蛹化させることには成功していない.今後は活動期(5-7月)に採集した個体を野外条件で飼育するなどして,寄生バエ成虫を確保していく予定である. 平成30年度は,2種のオサムシが採集された環境で放射照度を測定し,体色変異と放射照度の関係を明らかにする.また樺太での2種の姉妹種を採集し,祖先形質としてそれらの体色を計測し,姉妹種を含めた系統解析を行う.
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Research Products
(1 results)