2017 Fiscal Year Research-status Report
なぜ昼も夜も動くのか?:原始的なサルにおける周日行性の適応意義
Project/Area Number |
16K18629
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 宏樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教 (90625302)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 周日行性 / キツネザル / 昼行性化 / マダガスカル / 活動性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.総説論文の刊行:2016年度から執筆してきたキツネザル類の周日行性に関する総説論文の改稿を進め、2017年7月に学術雑誌『霊長類研究』で刊行した。欧米に比べてあまり注目されてこなかった霊長類の活動性研究について、系統発生、至近メカニズム、適応的意義の側面から現時点での知見を把握したことで査読者から高い評価を得て受理に至った。
2.データ解析:2016年度までにチャイロキツネザルを対象に948時間におよぶ終日・終夜の行動観察を行っている。2017年度は共同研究者のTojotanjona Razanaparany氏と共同で行動データの解析を進めた。先行研究の多くが雨季から乾季への季節変化に伴う昼行性から周日行性への活動性の移行を報告している。しかし本研究では夜間の活動量は年中一定であり、日中活動は乾季から雨季にかけて増加する結果となった。昼夜の活動パターンは月齢、夜間の光強度、日長などの光刺激との相関が示されており、時間生物学的な至近メカニズムの作用が示唆された。また日中活動の季節変化は湿度や降水量、果実資源量と正の相関を示しており、熱ストレスへの体温調節が可能な雨季に食物獲得量を最大化するために日中への活動を増やすと考えられる。近年の系統発生学研究によって周日行性は夜行性から進化したことが確認されている。本研究は「夜行性霊長類がどのようなストレスを克服しながら、何のために日中活動を増やすのか」という、霊長類全体の昼行性化プロセスについての理解を深める上で重要なデータを示している。
3.成果発表:周日行性パターンの適応的意義を環境要因から説明した成果を京都大学が主催する国際シンポジウムで発表し、優秀発表賞を受賞した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.共同研究体制の状況:2017年10月に共同研究者のRazanaparany氏を国費留学生として報告者の所属部局に受け入れ、現在は日本で教育指導しながら共同研究を進めている。また、2018年2月には、共同研究機関であるアンタナナリヴ大学理学研究科と報告者の所属部局との間で学術交流協定を締結した。こうした共同研究体制の強化によって本研究の飛躍的な進展が期待できる。
2.データ解析の状況:周日行性の活動パターンについては観察データの数値化が2017年度前半までに終了し、2017年度後半以降は至近要因および究極要因による活動パターンへの効果を多変量解析によって検証してきた。先行研究とは異なる活動パターンおよびその成因を説明するメカニズムを確認しており、これまでにないユニークな観点からのキツネザルの周日行性や霊長類の昼行性化に対する理解の深化に貢献できる。
3.論文の執筆状況:データの全体的な傾向を把握した後、投稿論文の執筆計画を立てた。まずは至近メカニズム、その後に適応的意義に着目した論文を公表していく予定である。現在は非生物的な要因(光と気候の条件)による日中および夜間それぞれの活動パターンへの影響を検証して、至近メカニズムを考察する論文の執筆を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.野外調査の実施:雨季(11月~1月)にマダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園で野外調査を実施する。チャイロキツネザルの活動パターンに影響を与えていると考えられる食物の空間分布を調べるためにドローンを用いて森林画像を撮影し、食物資源を提供する樹木の位置を分析する。各食物を採取し、栄養分析のために日本に持ち帰る。
2.食物の栄養分析の実施:食物の栄養分析は京都大学霊長類研究所の実験施設を利用して行う予定である。協力者となる同研究所の受入研究者とはすでに計画について打ち合わせ済みである。すでに採取済のサンプルおよび2018年度の調査で採取するサンプルを分析する。
3.成果発表:8月にナイロビで開催される国際霊長類学会でチャイロキツネザルの周日行性の適応的意義に関する研究成果を発表する。周日行性の至近メカニズムを考察する論文を投稿する。その後、果実資源量や摂取栄養量、捕食者リスク等の究極要因に関するデータ解析をすすめ、周日行性の適応的意義を探る論文を執筆する。
|