2017 Fiscal Year Research-status Report
歴史的建造物のオンサイト樹種調査へ向けた新規手法の基礎的研究
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16K18730
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田鶴 寿弥子 (水野寿弥子) 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (30609920)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 樹種識別 / 非破壊 / オンサイト |
Outline of Annual Research Achievements |
古くから適所適材という文化が根付き、木質文化財を多く有する日本においては、樹種の情報を抽出することは、考古学・美術史・建築史といった様々な分野においても重要であることからより重要度が増している。従来、樹種識別には、木材組織の顕微鏡観察といった作業ならびに木材組織における専門的知識が必須であったため、より汎用性が高い、非破壊かつ簡便でオンサイトな手法の開拓に重きが置かれてきた。 昨今増加している歴史的建造物の修理における部材調査においては、樹種情報から当時の木材流通や植生といった様々な情報が得られるが、膨大な数の部材を調査する必要があるため、オンサイトでの調査の必要性が増している。そこで本研究では近赤外スペクトルと統計的判別手法を組み合わせた非破壊手法であるケモメトリクス解析に注目し、ポータブル型近赤外分光法を活用した実用的なシステム構築を目指している。これまでに、京都大学材鑑調査室に保管されている有用樹種(現生)のうち、歴史的建造物に多く使用されている例が多い樹種を中心に、卓上型NIRおよびポータブルNIRによるデータの獲得ならびに解析を進めてきた。複数の樹種間については判別を可能としてきたが、古材については試料により判別精度が下がるものも多く、現在精査を進めている。 一般に茶室建築や建造物に使用されるアスナロ属には、東北地方に多いヒノキアスナロと本州でも生育するアスナロという種類があり、これらを分けることができれば、茶室や建造物に使用されているアスナロ属の当時の北前船流通をはじめとして重要な知見となる。現在のところ、まだ古材での樹種識別制度が向上していないが、アスナロ属に限らずオンサイトでの樹種識別の制度を高めることで、木材の用材観や流通を明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで関西・北陸地域の歴史的建造物の修理工事に際して、建造物に使用されている部材の樹種調査を数多く行ってきたが、その中でも特に現場の大工でも目視での樹種判断に間違いが起こりやすかった樹種、例えばモミとマツ、スギとアスナロ属、ヒノキとアスナロ属、ニレ科の樹種といった組み合わせを中心として、京都大学材鑑調査室に保管されている現生の有用樹種を活用して近赤外データの蓄積を行い、古材でも同様のデータの蓄積を行った。その結果、現生材については複数の樹種について判別を可能としたが、古材については、試料の劣化状況などによっては判別精度が非常に下がるものもあり、現在継続してさらなるデータの蓄積を進めている。特に、古材に関しては水分量が原因とみられる精度の低下が認められることから、今後データの解析に十分な時間をとりたいと考えている。また、研究が遅延している理由としては、2017年度、従来より並行してデータの蓄積を行っている木彫像の樹種調査の一環としてアメリカの複数の美術館に所蔵されるアジア由来の木彫像群や建造物部材の樹種調査に注力したこと、ならびに国際会議開催に向けた業務や、育児関連で時間を取られることが多く、思うように研究に割く時間が取れなかったことが大きい。今年度は、研究に注力しこれまでに収集した古材資料や蓄積データを解析する時間として、論文にまとめていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
木材組織での判別が時に困難であるニヨウマツ類に属するアカマツとクロマツについては、現生材でのみ判別が可能であることを突き止めた一方で、古材のアカマツとクロマツでは、吸着水の量に起因しているとみられる影響で、判別不可能であることが判明した。これと同様に、古材では現生材と異なり、樹種によって判別に失敗する例が多く見られた。判別分析に利用する波長領域を変動させたり、二次微分を一次微分にとどめて判別精度の向上を検討するなど、多方面からの対策をとってきたが精度が向上しないものもあったことから、古材の抽出成分を化学分析することで、具体的な変化を読み取り、それを近赤外による判別分析へフィードバックさせることも想定している。茶室や歴史的建造物に多様されるアスナロ属に含まれるアスナロとヒノキアスナロの判別については、これまでの研究で近赤外分光法では未だ可能となっていない。属以下のレベルでは判別が困難であるという可能性も視野に入れ、DNA分析による樹種判別も考慮したい。今年度は、古材における判別精度の向上ならびに論文の執筆にあてたいと考えている。
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Causes of Carryover |
(理由) 計画では、初年度にポータブルNIR装置の附属品と現地調査のためのカメラを計上していたが、基礎的データの蓄積に時間をとられたため、次年度の購入に変更したため。また、初年度の消耗品に計上していた識別用のシーリング材なども在庫がまだあったため、購入しなかった。 (使用計画) ポータブルNIR装置の附属品と現地調査のためのカメラなどを購入するほか、部材の年代測定費用や2018年度の実地調査のための旅費などに用いる予定である。
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[Journal Article] Assessment of Sungkai tree-ring δ18O proxy for paleoclimate reconstruction in western Java, Indonesia.2017
Author(s)
Harada, M., Watanabe, Y., Nakatsuka, T., Tazuru-Mizuno, S., Horikawa, Y., Subiyanto, B., Sugiyama, J., Tsuda, T. and Tagami, T
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Journal Title
Quaternary International
Volume: 432
Pages: 33-38
Peer Reviewed / Open Access
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