2016 Fiscal Year Research-status Report
正常な皮膚機能に関わるビタミンD受容体の標的遺伝子探索とその発現機序の解明
Project/Area Number |
16K19556
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
沢津橋 俊 徳島大学, 先端酵素学研究所(オープンイノベ), 特任講師 (70535103)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ビタミンD受容体 / 乾癬 / 表皮 / S100A8 |
Outline of Annual Research Achievements |
ビタミンDは乾癬治療薬として用いられてすでに30年ほど経つにもかかわらず、その作用機序は未だ判然としていない。本研究では表皮特異的なビタミンD受容体(VDR)ノックアウトマウスを作出し、その乾癬様の皮疹と脱毛の原因を遺伝子の発現制御レベルで明らかにする。申請者はその責任因子の同定とVDRによる抑制機序の解明を目指す。 マイクロアレイ解析で発現増強をみとめたタンパク質を中心に、蛍光免疫組織染色法によりその発現領域から肥厚化との関連性を検討した。これらのうちS100A8は乾癬患者の皮膚で局所的な高発現が報告されており、肥厚化を惹起するシグナル分子としての働きを有する可能性がある。各細胞層のマーカー分子(Keratin14, Keratin10, Filaggrin, Loricrin等)との共染色によりその発現領域を比較し、肥厚化のステージとの相関性を検討したところ、Keratin10の発現する有棘層で顕著な肥厚化が観察された。驚いたことに、KOマウスではS100A8は退縮期の毛包内で異所性の発現亢進が認められた。またS100A8が走化性因子である可能性を考慮し、T細胞やマクロファージの浸潤の有無を検討したが、これらには顕著な違いを認めなかった。イミキモド塗布による乾癬モデルでは、その重症化度に若干の差異が認められた。 表皮VDRの欠損により、発現亢進されるS100A8遺伝子などの予測プロモーター領域をクローニングし、レポーター解析によりその活性化転写因子を探索した。その結果、特にNF-kB, AP-1による活性化が顕著であり、中でもS100A8遺伝子プロモーターに新規のNF-kB応答領域として151bpのエンハンサー領域の同定に成功した。以上の結果を受け、ゲノム編集技術を用い、S100A8ノックアウトマウスとS100A8レポーターマウスの作出に着手し、樹立に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では表皮特異的なビタミンD受容体(VDR)ノックアウトマウスで発現亢進していたS100A8に着目することで、その乾癬様の皮疹と脱毛の原因となるかを検討している。研究開始時は乾癬様の皮膚の肥厚化への影響を予想していたが、この肥厚化は脱毛より後期(12週齢ころ)より顕著となることが判明し、脱毛は3週齢以前の非常に早いステージで差異として認められた。つまり、脱毛の結果が皮膚肥厚の原因であることが強く示唆された。驚いたことに、KOマウスではS100A8は退縮期の毛包内で異所性の発現亢進が認められ、その毛包の形態に新たな異常を見つけることに成功した。そこで、S100A8遺伝子の欠損マウスの作出を試み、ゲノム編集技術を用いることで、10カ月という短期間にコンディショナルノックアウトマウスと全身性ノックアウトマウスを樹立した。さらには、S100A8遺伝子のプロモーター解析により、新規のNF-kB応答領域として151bpのエンハンサー領域の同定に成功した。このエンハンサーがin vivoにおいても機能するかを検討する為、レポータートランスジェニックマウスを作製したところ、毛包形成の初期から、毛包内の限局した部位で発現していることが明らかとなった。このレポーター解析は開始時には、トランスジェニックマウス作成の技術が無かったことから、レンチウイルスによる導入を予定していたが、マウス作成の技術協力が得られたため、継代による効率的な解析が可能なマウスの作出に繋がった。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の結果に基づき、脱毛に着目して研究を展開する。当初はレンチウイルスで作成する予定であった、S100A8レポーターマウスはトランスジェニックマウスとしてすでに樹立しており、今後VDR KOマウスとの交配により発現亢進部位の同定と、その後の脱毛・皮膚肥厚化に関与する可能性とそのメカニズムを明らかとする。また、同様にレンチウイルスによるノックダウンを予定していた遺伝子機能欠損解析も、ゲノム編集技術で作成したS100A8コンディショナルノックアウトマウスと全身性ノックアウトマウスをVDR KOマウスと交配し、ダブルノックアウトマウスを樹立し解析に用いる。 これらのマウスを樹立する間に、ヒト表皮角化細胞HaCaTを用いて、VDR欠損細胞を樹立し、培養細胞でのモデル系を作成する。このモデル系では特に、VDRによるS100A8等の標的遺伝子の抑制が認められるかを中心に解析を行う。さらに、初年度に新たに同定したNF-kB応答領域として151bpのエンハンサー領域ではどのような転写因子が機能するかをゲルシフトアッセイやレポーターアッセイにて検討する。
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Causes of Carryover |
3月に納品となり、支払いが完了していないため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
4月に支払いが完了する予定である。
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