2017 Fiscal Year Research-status Report
保護要因に焦点を当てた暴力リスク・アセスメント・ツールSAPROFの有用性の検証
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16K19793
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
柏木 宏子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 病院, 医員 (90599705)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 暴力 / 保護要因 / リスクアセスメント / SAPROF / 予測妥当性 / 医療観察法 / 評価者間信頼性 |
Outline of Annual Research Achievements |
SAPROF日本語版の予測妥当性と評価者間信頼性の後方視的コホート研究の結果を英文誌に論文発表した。対象は、2008年4月から2012年11月までに、国立精神・神経医療研究センター病院の医療観察法病棟に入院した対象者の中で、入院期間が1年以上の者とした。SAPROFは、入院後2週間の診療録、医療観察法鑑定書、生活環境調査書をもとに評価した。入院後6カ月間および1年間の暴力の発生の有無を診療録で調査した。この他、評価者間信頼性を調査するため、二人の評価者が30名の対象者を評価した。解析は、暴力の予測妥当性については、ROC曲線を、評価者間信頼性はICCにて解析した。 結果は、95名が参加(男性83名)、診断は統合失調症圏が73.7%であった。対象行為(入院のきっかけとなった他害行為)は、殺人、傷害、放火の順で多かった。6カ月以内に、11名、1年間に17名の暴力が見られた。SAPROF日本語版の評価者間信頼性は、SAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて中等度から良好との結果が得られた。また、SAPROF日本語版のSAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて、6ヶ月後と12ヶ月後の暴力の発生がないことへの高い予測妥当性が得られた。本研究で得られた結果は、暴力のリスクアセスメントにおいて、本人の強みとなる部分、すなわち保護要因に着目することの妥当性が示されたとともに、海外との比較において重要な資料を提供できる。今後は、通院対象者や、刑務所、一般精神科などの別の集団におけるSAPROFの予測妥当性を確かめることが必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
SAPROFの予測妥当性と評価者間信頼性(後方視的コホート研究)については、英文誌に出版され、一定の成果をあげることができた。一方、多施設共同の前方視的コホート研究(医療観察法病棟に入院1年以内の対象者にSAPROFとHCR-20を評価し、その後の暴力の発生の有無に対する予測妥当性、不安や抑うつ、自己効力感や共感性などの指標との関連を解析する)は、12施設から、約60例が参加したが、当初の予定よりは参加人数が少ない。今後は暴力の発生の調査と解析を行う予定である。また、SAPROFを対象者と支援者とで共有することの治療効果(治療に対する自律的動機付けや有能感、一般的自己効力感、抑うつ、不安への影響)の検証については、SAPROFの自己評価インタビュー版の翻訳を行った。また、対象者(SAPROFを支援者と共有する群)とコントロール群(SAPROFを共有しない群)とで、前後で、治療に対する自律的動機付け、有能感、一般的自己効力感、抑うつ、不安を評価し、比較する計画であり、研究の準備が整ってきている。ただし、研究の科学性を担保するためのプロトコール作成や評価尺度の選択などをさらに慎重に検討する必要があり、関係者で協議している。このためやや遅れているものの、意義のある研究実施が実現可能となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
SAPROF日本語版の予測妥当性研究(後方視的コホート研究)については、医療観察法病棟を退院後の通院対象者についても調査を実施する計画である。すでに国立精神・神経医療研究センター病院を退院し、通院中の対象者で、その後3年間の問題行動の有無が法務省の社会復帰調整官によって把握されているケースが100例以上あるため、その研究との連携を行うことで、研究実施が実現可能である。倫理委員会の承認を得る準備を進めている。 SAPROFとHCR-20の入院対象者に対する多施設共同研究(前方視的コホート研究)は、12施設から集まった約60例について入力し、解析を行い、論文化する。ただし、評価後1年間の暴力の発生の有無についての調査結果がすべてそろうのは、平成30年11月の見込みである。 SAPROFを支援者と当事者とで共有することの意義を検証する研究については、【現在までの進歩状況】に記載した通りである。多職種担当チームと共有することは、業務上困難であるため、評価者(申請者)が当事者とSAPROFと共通評価項目(医療観察法で、多職種や裁判所との共通の評価視点として開発され、主に問題点の抽出に焦点があてられた17の評価項目)を共有する。事前に評価者はその個人のSAPROFを評点し、当事者のSAPROFの自己評価との相違点を解析することを新たに研究に追加する予定である。コントロール群は共通評価項目のみを評価者と共有する。共有する前後において、暴力をコントロールすることに対する自律的動機付けや有能感、一般的自己効力感、抑うつ、不安を評価し比較する。平成30年度中には研究実施と解析を行うことが目標である。
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Causes of Carryover |
2400円と少額であり、ほぼ計画通りに使用された。謝金に余裕があるようであれば、評価尺度の検査用紙代にあてる予定である。
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Research Products
(3 results)