2016 Fiscal Year Research-status Report
ギルガメシュ叙事詩の編集史的研究および物語言語研究のためのデジタルアーカイブ構築
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16K20936
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高橋 洋成 筑波大学, 人文社会系, 研究員 (90647702)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ギルガメシュ叙事詩 / 楔形文字資料 / 文献言語学 / 編集史 / デジタルアーカイブ / Text Encoding Initiative |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ギルガメシュ叙事詩の古バビロニア語版(前二千年紀初め)と標準版(前二千年紀末)をデジタル的に比較し、言語特徴や表現の違いに着目して、後者が前者をどのように編集し、その背景にあったものは何かを考察することである。ギルガメシュ叙事詩の古バビロニア語版は、完全ではないもの比較的状態の良い2つの資料、すなわちペンシルバニア粘土板(OB II)とイェール版(OB III)が現存している。一方、標準版の粘土板は大きく破片化してはいるものの、研究者らによって粘土板I~XIIとして復元されている。このうち古バビロニア語版と標準版とのまとまった対応が確認されるのは、標準版I~IIIである。以上を踏まえ、平成28年度に実施した研究は次のとおりである。 1. 復元された標準版I~III(合計831行)について、転写テキストのデジタル化を行った。具体的には以下の作業である。(1) A. R. George, The Babylonian Gilgamesh Epic (Oxford, 2003)の転写テキストに基づき、Text Encoding Initiative (TEI)に準拠したXMLフォーマットを作成した。(2) 今後、言語特徴や表現の調査を行うために、それぞれの語に対してTEIタグを付け、形態情報を記述した。この際、アッカド語の形態情報を過不足なく記述するために、形態論的な枠組みの精査を行い、それに基づいてタグを整理した。 2. 古バビロニア語の粘土板OB II、OB III(合計528行)のデジタル化を開始した。具体的には、それぞれの粘土板をTEIに準拠したXMLフォーマットで記述し、個々の楔形文字および個々の語ごとにタグを付けた。 3. 楔形文字粘土板の転写方法について、12月に開催されたデジタル・ヒューマニティーズのワークショップで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度の研究計画は、1. 全体作業の見通しを良くするため、最初に標準版転写テキストのデジタル化を行い、2. 古バビロニア語粘土板の楔形文字情報を含めたデジタル化を開始する。3. 破損している標準版の粘土板について、状態の良いものから順次、楔形文字情報を含めたデジタル化を開始する。4. データの蓄積が進んだ段階で、古バビロニア語版と標準版の比較を開始し、それを記録できるようなTEIタグの開発を行う。5. 作業の進捗状況を国際学会で発表する、というものであった。 1. 全体作業のための基礎として行った標準版I~III(合計831行)の転写テキストのデジタル化はほぼ達成した。個々の語に付すためのTEIタグの整理・拡張も行われ、データを過不足なく記述できる状態にある。ただし、タグの精度については今後の作業を通じて、随時発展的に修正していく。 2. 古バビロニア語粘土板OB II、OB III(合計528行)のデジタル化については、平成28年度の9月から開始し、平成29年度の5月に達成する見込みである。おおむね順調に進んでいる。 3. 大きく破片化している標準版の粘土板断片のデジタル化については、デジタル化すべき7つの破片の選定を行ったものの、デジタル化作業の着手にまで至っておらず、やや遅れている。 4. 古バビロニア語版と標準版との比較、ならびにその編集プロセスを追うためのTEIタグの開発を平成29年1月から開始する予定であったが、3月からの開始となった。 5. 12月に筑波大学で開催された、海外の講演者を招いてのデジタル・ヒューマニティーズ・ワークショップで、楔形文字粘土板の伝統的転写方法と、デジタル的に転写する方法の特徴やメリットについて論じ、他の様々な文献資料を行っている研究者から助言を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.平成28年度からの継続作業として、古バビロニア語粘土板OB II、OB III(合計528行)のデジタル化を5月までに完了させる。 2. 大きく破片化している標準版粘土板については、すでにデジタル化すべき7つの破片の選定が済んでいる。この中でも、なるべく破損の少ないものを優先してデジタル化を行う。この作業は5月から開始し、9月を目処として可能な限りの粘土板をデジタル化する。この作業に関する進捗状況と得られた知見を、9月に開催される日本デジタル・ヒューマニティーズ学会(JADH)の年次大会で発表する。 3. 6月以降、ある程度の粘土板データが出そろい次第、ギルガメシュ叙事詩の編集過程の分析を行う。それに伴い、先行研究として旧約聖書研究における文書仮説との比較を開始する。その成果を、12月に開催される「人文科学とコンピュータシンポジウム(じんもんこん2017)」で発表する。 4. 古バビロニア語版と標準版で「語り」の方法がどのように変化するか、パイロット・スタディを12月に公刊される筑波一般言語学研究会の会誌『一般言語学論叢』に投稿する。 5. 以上の分析の成果、および発表におけるフィードバックをもとに、2月までTEIタグの精査を継続し、粘土板データをブラッシュアップする。また、同じく2月までに粘土板データをWorld Wide Webを通じて公開する。
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Causes of Carryover |
粘土板のデジタル化とデータの蓄積を優先し、予定していた7月のSociety of Biblical Literature (SBL)の国際大会への参加を見合わせたため。また、購入予定だった参考図書数点が入手困難であり、注文がキャンセルされたため、旅費と物品費の一部を次年度使用金とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
入手困難であった参考図書を再検討し、計画通り楔形文字粘土板およびセム語に関する参考図書の購入費に充てる。それとともに、研究のスピードアップを図るため、データ入力補助者に対する謝礼に充てる。
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Research Products
(2 results)