2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K21479
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Research Institution | Kyoto Notre Dame University |
Principal Investigator |
杉村 美奈 京都ノートルダム女子大学, 人間文化学部, 准教授 (20707286)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ラベル / 付加詞 / 項 / 選択 / 置き換え / 移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、目的節である「に」句の振る舞いに関するデータ (Sugimura and Miyamoto 2015) について再考し、特に置き換え、移動に関する言語事実について確認した。その結果、宮本陽一氏による研究協力のもと、「に」句が項・付加詞両方の振る舞いをするという言語事実を明らかにした。具体的には、置き換えについては項の様に振る舞い、移動については付加詞の様に振る舞うことが明らかになった。 この事実を踏まえ、「に」句は統語的には動詞の項の位置に現れるが、選択(selection)を伴わない付加詞であるという結論を導き出した (Sugimura and Miyamoto 2017)。一方で、「に」句は目的節 (purpose clause) であり、英語においても目的節は付加的な要素であるとされている。従って、項の位置のみではなく通常の付加位置に現れることもできるため、ここでラベル付与が問題となる。しかし、「に」句はラベル付与に関与しない要素である (Sugimura and Miyamoto 2015) ため、「に」句が動詞句への付加構造をとった場合も動詞句のラベルが付与され、この点も問題なく説明が出来ることを確認した。 以上のことから、異なるラベル付与の可能性が、「に」句の「項のように振る舞う付加詞」という統語的曖昧性から導かれることが本年度の研究成果として明らかになった。また、「に」句が動詞の項の位置を占めるが動詞による選択を伴わない付加詞であるという主張が正しいとすると、ラベル付与は「に」句に関しては随意的であることが、先行研究 (Cecchetto and Donati 2015)により示唆される。しかし、この事実は28年度の省略 (ellipsis) に関する研究成果と相反する可能性を示しており、この点については更なる検証が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成28年度、及び、29年度に明らかになった動詞句付加詞に関する言語事実に基づき理論構築を進めているが、「付加詞ラベル付与メカニズムの理論化」という平成29年度の研究計画に遅れが生じ、現象記述に対する理論構築が最終段階に至っていない。また、29年度の成果として「付加詞」と「項」両方の性質を持つ「に」句の性質についての言語事実が新たに明らかになったことにより、新たに考慮すべき事項が加わった。このため、1年研究期間を延長し、28年度及び29年度の研究成果を比較検討した上で、成果の発表に向けて更なる理論の精密化が必要となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、「に」句と「て」句との振る舞いの違いに注目し、付加詞として動詞句と併合する場合、及び、項として併合する場合との構造的な差及び統語的性質の違いに焦点をあて、理論構築に向けて研究を遂行する。具体的には、着点 (Goal) 項の具現化や句からの抜き出しに関して、それぞれがどの様な振る舞いを見せるかについて言語事実を確認し、説明を試みる。 現段階では、「に」句は項のように振る舞う付加詞であり (Sugimura and Miyamoto 2017)、一方で「て」句は項、付加詞、と二分化され、それぞれの句の内部にある動詞主要部が句の外部への移動に関し異なる振る舞いをする (Hayashi and Fujii 2015) ことが明らかになっている。この事実を基に、30年度は「て」句の中でも「に」句と同様に、一見すると項のようにも付加詞のようにも振る舞う「て」句について注目し、「て」句の構造と「に」句の構造、及び、既述の着点(Goal)が項としてどう具現化するかについて研究を進める。また、それぞれの句が移動する場合の派生、及び、句からの抜き出しに関する言語事実を明らかにし、ラベル付与との関連性を調査する。
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Causes of Carryover |
29年度の研究計画に遅れが生じ、研究成果発表に向けての費用が未使用となったため次年度使用額が生じた。30年度には関連図書の購入、及び、学会や研究会等に参加するための旅費、及び、論文校正(英語)に係る謝礼に使用する予定である。
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Remarks |
Sugimura, Mina and Yoichi Miyamoto. 2017. The Function of -Ni in Labeling in Japanese: In Support of Saito (2014). Unpublished Manuscript, Kyoto Notre Dame University and Osaka University.
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