2016 Fiscal Year Research-status Report
老いの姿はなぜさまざまなのか―進化の隣人チンパンジーの多様な加齢プロセスに探る
Project/Area Number |
16KT0006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 寄付研究部門教員 (90642950)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保坂 和彦 鎌倉女子大学, 児童学部, 教授 (10360215)
中村 美知夫 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30322647)
座馬 耕一郎 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (50450234)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 老齢学 / 老化 / チンパンジー / 人類進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)研究代表者及び分担者が1989年から蓄積してきた野生チンパンジーのビデオテープ記録について、古いものから順にファイル化とデータベース化を行なっている。その結果、現在は老齢となっている個体の若年時からの行動や肢体の変化を、複数の指標で数値化して検討できる見通しが立ちつつある。また、これまで再生できなかった古いビデオ記録をファイル化したことにより、協力研究者が行う認知実験への素材提供が可能になった。動画に対する反応など、幅広くチンパンジーの認知機能を探る可能性が広がっている。 2)分担者の座馬は平成28年10月から11月にかけてタンザニアのマハレ国立公園において野生チンパンジーの調査を行った。デジタルカメラを用いて各個体の加齢に伴う肢体の変化を記録するかたわら、2個体の高齢個体の個体追跡を試み、合計1000分を超える観察に成功した。結果は分析中であるが、2個体の社会交渉に相当の相違が見られ、チンパンジーにおいても「老いの姿はさまざま」であるという、本研究課題のテーマに沿った成果が得られる見通しである。また、座馬はチンパンジーの睡眠にも注目しているが、加齢による睡眠の変化も加齢研究の重要な着目点になる可能性が見えた。 3)上記野外調査の結果を踏まえ、分担者の保坂は次年度のマハレでの野外調査の計画作成と許可申請を行った。座馬が収集したデータの補強拡張のほか、チンパンジーの狩猟と肉の分配における高齢個体の行動にも着目する。 4)研究代表者中村は、京都大学霊長類研究所と京都市動物園における飼育下のチンパンジーの観察とともに、平成28年8月から9月にかけて、コンゴ民主共和国のマレボ地域で野生ボノボの予備調査を行った。マレボ地域は熱帯林とサバンナ疎開林が混在し、初期人類の生息環境を想起させる興味深い調査地であるが、現地の協力体制の構築の必要性など、課題も浮き彫りになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ビデオ記録は、古いものから順にファイル化を始めたが、古いものほどテープの傷みが激しく、修復作業に予想以上の時間と予算を費やしている。 熊本地震の影響で、野生動物研究センター熊本サンクチュアリでのチンパンジーの認知実験を控えたため、この研究施設でのデータ収集は予定通りに進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
1)古いビデオ記録のファイル化では、テープの劣化が予想以上に深刻であることがわかったため、当面は整理・分析よりも、より多くのテープの迅速なファイル化と修復に力を注ぐ方針である。一方、本課題でファイル化した動画が幅広い認知実験の刺激素材としても有望であると示されたことから、課題終了後には多くの研究者の活用に供することを視野に入れ、最適なデータベース化と公開の方法に検討を加えていく方針である。 2)本課題の申請時に野外調査での追跡対象と考えていた野生個体のうち、実際の野外観察の着手前に消失(死亡)した個体が複数あった。特に高齢個体を対象とした研究では研究期間中も対象個体の途中消失が考えられるが、それまで収集したデータの活かし方、本課題終了後にも将来の課題で活用可能なデータの整理方法、共有方法を常に分担者、協力研究者とともに検討していきたい。また、ファイル化を通して動画記録の有用性、汎用性が再認識された。可能な限り多角的、継続的に動画を蓄積していく方針である。 3)研究代表者、分担者の飼育下および野外での観察により、本研究で掲げた「老いの姿の多様性」は、チンパンジーにも共通して見られることが客観的に示せる予測がついた。今後はその進化的意義にどうアプローチするかという問題意識を研究体制内で常に共有し、より深めていく方針である。
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Causes of Carryover |
古い動画記録のファイル化作業で、ビデオテープの傷みが予想以上に大きく、修復の方法などに関する検討に時間を費やしたため、予定していたファイル化の作業本数に達しなかった。 熊本地震の影響で野生動物研究センター熊本サンクチュアリでの認知実験を控えたため、熊本への旅費を支出しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ビデオテープのファイル化については、野外観察のデータの分析等に優先して進め、テープの劣化がこれ以上激しくならないうちに、速やかに行っていく計画である。 野生動物研究センター熊本サンクチュアリでの認知実験は、本年度に実施できなかった項目も含め、次年度に行う予定である。また、ファイル化した過去の動画と、本研究課題で新たに記録した動画を整理、比較するための映像データ編集システムを構築し、データベース化への準備に着手する計画である。
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Research Products
(14 results)