2016 Fiscal Year Research-status Report
多宗教共存とエスニシティ共生―旧英領カリブ社会における民族紛争抑制のメカニズム
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16KT0045
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
辻 輝之 北海道大学, 高等教育推進機構, 特任准教授 (20546832)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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Keywords | 史料収集 / 史料データ分析 / 論文執筆進捗 / 現地調査実施 |
Outline of Annual Research Achievements |
紛争研究では,現在あるいは過去において暴力的紛争が発生し,社会の存立に甚大な影響を与えた事例に焦点を当て,「なぜ,紛争が発生する(した)のか」を究明するプロジェクトが主流を占める。しかし,集団間の和解と共生を可能にするメカニズムの探求と構築には,他の多くの社会で暴力的紛争を発生させている構造的要因を同じように有しながら,比較的高い社会統合と平和的発展を実現してきた社会を対象として,「なぜ,暴力的紛争が発生しない(しなかった)のか」を究明することが必要である。この問題意識から,本研究課題では,集団間の緊張と対立が暴力的紛争を引き起こしてこなかったトリニダッド・トバゴ(以下トリニダッド)を主なフィールドとして,民族誌・古文書調査する計画である。平成28年度の成果の概要は以下の通り。 第1に,これまで収集したインタビュー・データのトランスクリプション作業とソーティング,古文書・史料データの解読と分析を大幅に進めることができ,それを基に追加調査についての計画見直しを行った。 第2に、データの分析結果を基に、学術論文数本の執筆を進めた。そのうちの1本,植民地期の宗教集団間の関係にマリア信仰が及ぼした緊張緩和効果についてまとめた論文The Power of Mary: Inspiration and Seduction for the Colonial Construction of Religions を学術雑誌New West Indian Guide (カリブ地域研究に関する世界最古の学術雑誌)に投稿した (現在査読中) 。 第3に、書籍出版については書籍原稿の執筆については,計画している全6章のうち,第1章の第1稿を書き上げた。なお、同書籍の出版計画をいくつかの出版社に提出した結果,改善に向けてのコメントが返されたため,再提出に向けて修正作業を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度に予定していた現地調査を実施して新たにデータを収集することができなかった。その理由は以下の通り。 第1に,すでに手元にある膨大なデータの解読と分析に計画よりも多くの時間を費やさざるを得なかった。特に、古文書・史料データについては,トリニダッド・トバゴと教会の歴史を反映して,英語だけではなく,ラテン語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語による文書が多数含まれており,これらの書き取りと翻訳作業に多くの時間を使った。これらのデータの分析結果を基にして計画を再検討した上で現地調査を実施する予定であった。有意義に現地調査を行うため,実施を来年度以降に延期することとした。 第2に,本研究課題では,主な調査地であるトリニダッドとの比較検討の対象として,歴史的・社会構造を共有しているものの,トリニダッドと異なり,これまで民族集団間の紛争が多く発生してきたガイアナで調査を行う予定である。2016年後半に実施された総選挙以降,政治・経済が再び不安定化し,犯罪が多発していることから,現地調査の計画と受け入れ態勢をよりしっかりと整える必要が生じた。 第3に、平成28年度途中に所属機関が変更となり,調査・研究の環境を新たに最適化するために時間を要したためにデータ分析を中断せざるを得ず、論文の執筆に少しの遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の具体的な課題推進計画は以下の通り。 第1に,すでに手元にあるデータの分析を継続する。そのプロセスの加速化を図るため,古文書データに関して,海外の専門家に補助を依頼する予定である。 第2に,これまでのデータ分析の結果を基にした追加調査計画にしたがって,トリニダッドおよびガイアナでの現地調査を実施する(それぞれ4月及び9月に2週間程度を予定)。現在,トリニダッドにある西インド諸島大学の研究者を通して,ガイアナでの現地調査の受け入れと支援を依頼している。ガイアナでは,トリニダッドと同じように,教会やヒンドゥー寺院での参与観察や聞き取り調査に加えて,ガイアナ大学および国立古文書館での史料収集を実施する。 第3に,これまでのデータ分析の結果を基に,学術雑誌への投稿に向けた論文執筆,書籍原稿執筆の継続と並行して,書籍出版計画の改訂を早急に終えて出版社に再提出する。
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Causes of Carryover |
平成28年度に現地調査の実施を予定していた。しかし,(1)収集済みのデータの分析に計画よりも多くの時間を費やさざるを得なかった,(2)調査地の一つであるガイアナの正常・経済不安定化による犯罪の多発を受けて,計画の再検討が必要になった,ことを主な理由として,現地調査を平成29年度以降に延期せざるを得なくなった。そのために現地調査のための旅費として計上していた予算額を繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には,現地調査を計画通り実施して旅費として使用するとともに,古文書・史料データの解読プロセスを加速化して研究課題の進捗を図るために専門家の補助を得て,そのための謝金に充てることも検討している。
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