2017 Fiscal Year Research-status Report
多宗教共存とエスニシティ共生―旧英領カリブ社会における民族紛争抑制のメカニズム
Project/Area Number |
16KT0045
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
辻 輝之 北海道大学, 高等教育推進機構, 特任准教授 (20546832)
|
Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2020-03-31
|
Keywords | 学術雑誌論文投稿 / 書籍原稿執筆 / フィールドワーク / 史料解析 / 先行研究検討 |
Outline of Annual Research Achievements |
紛争研究では,現在あるいは過去において暴力的紛争が発生し,社会の存立に甚大な影響を与えた事例に焦点を当て,「なぜ,紛争が発生する(した)のか」を究明するプロジェクトが主流を占める。しかし,集団間の和解と共生を可能にするメカニズムの探求と構築には,他の多くの社会で暴力的紛争を発生させている構造的要因を同じように有しながら,比較的高い社会統合と平和的発展を実現してきた社会を対象として,「なぜ,暴力的紛争が発生しない(しなかった)のか」を究明することが必要である。この問題意識から,本研究課題では,集団間の緊張と対立が暴力的紛争を引き起こしてこなかったトリニダッド・トバゴ(以下トリニダッド)を主な対象,ガイアナを比較対象として,現地での民族誌・古文書調査を継続している。 平成29年度は,(1)2018年4月に約3週間,トリニダッドでのフィールドワークを実施し,重要な事例研究であるヒンドゥー教徒によるカトリック教会のマリア像への巡礼(聖金曜日)での参与観察,マリア像のケアテーカー,巡礼者への聞取り調査,現地西インド諸島大学での史料調査を行い,非常に重要なデータを収集することができた。(2)さらに以前に収集した聞き取り調査データのトランスクリプトとソーティングを継続,史料データの解読と分析を大幅に進めることができた。(3)28年度に投稿した学術論文の出版がかなわなかったが,査読者による重要なコメントを反映し,さらに新たに解析したデータを加えて大幅に書き直した同論文を再投稿した。(4)ガイアナでの調査(29年度末~30年度4月半ば)を開始するにあたり,同国の宗教とエスニシティの相関と,その社会統合への影響に関する先行研究の検討を進めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題が「おおむね順調に進展している」とする根拠は,(1)前年度に実施できなかったトリニダッドでのフィールドワークを今年度4月に実施し,遅れていた古文書収集が大きく進展した。(2)昨年度投稿したが,出版できなかった学術雑誌論文の修正作業と並行して,新たに解読・分析の済んだデータを基にもう一本の学術雑誌論文の執筆が進んだ。29年度中の校了には至らなかったが,第一稿がほぼ完成し,今後さらにデータの解析を進めながら,30年度上半期中に投稿する予定である。(3)29年度末から30年度4月半ばにかけて実施予定のガイアナでの予備調査に向けて,最低限必要となる先行研究の検討が進み,いくつか重要なリサーチクエスチョンを創出した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現地調査とデータ収集の継続については,(1)トリニダッドの比較対象とするガイアナに関しては,さらに先行研究を検討する必要がある。その過程の成果として,最新の研究成果について書評論文の投稿などを検討している。先行研究の検討を進めながら,これまでに考えているリサーチクエスチョンの絞り込みとインタビュープロトコルの作成を進める。(2)その上で,30年度は,上述したフィールドワーク(3月末から4月半ば)の他に,もう一度フィールドワーク(2018年9月あるいは2019年2月)を実施する予定である。このフィールドワークは,ガイアナでの現地調査が中心であり,補助金申請書にも記したように,異なる宗教が交差する場,カトリック教会とヒンドゥー寺院を選定して参与観察と聞き取り調査を集中的に行う予定である。また,同時に行うガイアナでの史料調査については,新聞など2次資料の収集から開始する。 成果の発表については,(1)30年度中に書籍原稿第1稿の完成を目指す。書籍原稿は現在予定している全6章のうち3章分の第1稿が完成している。書籍原稿の完成には,まだ分析のできていない膨大な聞取り調査,古文書調査からのデータの解読と分析のピッチをさらに上げる必要がある。そこで,インタビューデータのトランスクリプションと古文書データの解読を外部に委託する予定である。最適な業者や担当者の選定は,29年度中に済ませている。(2)先述したように,修正のうえで再投稿した論文に加えて,もう一本の論文を学術雑誌 Material Religion: The Journal of Objects, Art and Belief に投稿することを念頭に執筆中である。9月末までの校了・投稿を目指す。(3)すでに提出しているプロポーザルが受諾されれば,アメリカ人類学会(2018年11月)において成果発表する。
|
Causes of Carryover |
申請書においては,課題開始からの2年間は年2度の現地調査を実施する予定であったが,それらの実施に必要となる収集済みのデータの解読と分析に予定よりも多くの時間を要したために現地調査実施が28年度0回,29年度1回にとどまった。そのため30年年度および31年度には、2回以上の短期間であっても実施する必要がある。また,データ分析の速度を上げるために,今後は外部の専門家によるサポートを当初予定していたより多く依頼することになる。繰り越し分は,現地調査の旅費ならびに,データ分析への支援としての謝金に充当する予定である。
|