2017 Fiscal Year Research-status Report
システムウイルス感染症学:感染ダイナミズムに基づいた病態機構の解明
Project/Area Number |
16KT0111
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野田 岳志 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (00422410)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 佳 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 講師 (10593684)
渡士 幸一 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 主任研究官 (40378948)
岩見 真吾 九州大学, 理学研究院, 准教授 (90518119)
|
Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
|
Keywords | ウイルス / 数理解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトの健常状態は、体の環境を一定の良い状態に保とうとする恒常性によって維持されている。病気とはこの健常状態から別状態へ推移する事である。従って、ウイルス感染による生体システムの変化を体系的に理解することは病態を理解するために重要である。本研究は、感染経路や増殖形態および発現病態が異なるウイルスの感染における生体の恒常性維持・変容を生体システムの変化や破綻の観点から定量的に理解し、疾患を制御する方法を提案することを目的とする。本年度は、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルスを用いて、ウイルス学的解析と数理学的解析を組み合わせて病態発現の定量的解析や病態阻害の定量的解析を実施した。HIV-1に関しては、ヒト集団内における流行伝播効率に与えるヒト遺伝子多型の寄与だけでなく、およびエイズ病態進行におけるウイルス遺伝子とヒト遺伝子の相互作用を明らかにした。C型肝炎ウイルスに関しては、併用により既存薬の抗ウイルス活性を最大化できる臨床開発段階の侵入阻害薬を数理解析を用いて決定した。HTLV-1に関しては、Taxタンパク質の発現振動を数理解析により解明した。このように、実験ウイルス学と数理科学の融合研究により、ウイルス感染下における生体の恒常性維持・変容を生体システムの変化や破綻の観点から定量的に理解するだけでなく、それを制御する方法を提案することができた。これらの成果はそれぞれ国際科学誌に原著論文として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全症候群ウイルス1型(HIV-1)については、1) ヒト集団内における流行伝播効率に与えるヒト遺伝子多型の寄与、 2) ウイルス遺伝子とヒト遺伝子の相互作用がエイズ病態進行とウイルスの感染効率に与える影響に着目し、実験ウイルス学と数理科学の学際融合研究を実施した。C型肝炎ウイルスについては、併用により既存薬の抗ウイルス活性を最大化できる臨床開発段階の侵入阻害薬を、培養系でのウイルス感染複製実験および数理解析で調べた。その結果、抗ウイルス活性は使用する侵入阻害薬の系統に大きく依存しており、early receptorであるSRBIの阻害剤を用いた場合に最も既存薬の効果を最大化できることが明らかとなった。CD4陽性Tリンパ球に感染し治療抵抗性の悪性腫瘍である成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)を引き起こすヒトT細胞白血病ウイルス1型に関しては、Taxの機能解析を実施した。HTLV-1は発がん作用を有するTaxというウイルスタンパク質の遺伝子を持っているが、Taxは免疫の標的になりやすいため白血病細胞では殆ど検出されず、その役割や作用機構は明らかになっていなかった。本研究では、白血病細胞のごく一部の細胞が短時間Taxを作動させることで、細胞集団全体の生存を維持しているという、HTLV-1が極めて巧妙な手口により感染を維持していることを数理解析を用いて明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
HIV-1に関しては、HIV-1が感染者体内においてウイルス粒子を介した感染(cell-free infection)と細胞間接触を介した感染(cell-to-cell infection)のふたつの感染モードを介して感染を拡大することを明らかにしているため、今年度は、I型インターフェロンを始めとする宿主の免疫応答がそれぞれの感染モードに与える影響について、実験ウイルス学と数理科学の学際融合研究によって検証・解析を実施することを予定している。C型肝炎ウイルスに関しては、これまでに明らかにしてきた各治療薬の抗ウイルス活性の基礎データをもとに、薬のpharmacokinetics, pharmacodynamicsの情報を加味することにより、各治療薬および多剤併用での最適な治療期間を解析する。また薬剤耐性が生じた際に、同じ治療薬でのどの程度の治療延長がウイルス除去に有効であるかを考察する。HTLV-1については、HTLV-1はcell-to-cell感染を介した新規感染あるいはクローン増殖を経て感染細胞数を増加させており、cell-to-cell感染を起こすには感染細胞はTax遺伝子を発現する必要がある一方で、HTLV-1 Taxは抗原性が高く細胞傷害性T細胞(CTL)の標的となるという、トレードオフの問題に着目する。今後は、Taxの発現持続時間と発現間隔時間を実装したHTLV-1感染細胞、Tax発現動態およびCTLの相互作用を記述するシミュレータを開発する。このシミュレータを用いることで、細胞集団の動態のみならず、プロウイルス組み込み部位の多様化の過程の観察および将来の予測が期待できる。
|
Causes of Carryover |
昨年度は投稿論文の査読に対する追加実験等により、計画していた動物実験等を遅らせたため、使用計画と使用額に差が生じた。投稿していた論文の多くが受理されたため、本年度は予定していた実験を遂行する。
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
[Journal Article] HIV-1 competition experiments in humanized mice show that APOBEC3H imposes selective pressure and promotes virus adaptation.2017
Author(s)
Yusuke Nakano, Naoko Misawa, Guillermo Juarez-Fernandez, Miyu Moriwaki, Shinji Nakaoka, Takaaki Funo, Eri Yamada, Andrew Soper, Rokusuke Yoshikawa, Diako Ebrahimi, Yuuya Tachiki, Shingo Iwami, Reuben S. Harris, Yoshio Koyanagi & Kei Sato
-
Journal Title
PLOS Pathogens
Volume: 13
Pages: e1006348
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
-
[Journal Article] Human-specific adaptations in Vpu conferring anti-tetherin activity are critical for efficient early HIV-1 replication in vivo.2017
Author(s)
Eri Yamada, Shinji Nakaoka, Lukas Klein, Elisabeth Reith, Simon Langer, Kristina Hopfensperger, Shingo Iwami, Gideon Schreiber, Frank Kirchhoff, Yoshio Koyanagi, Daniel Sauter & Kei Sato
-
Journal Title
Cell Host & Microbe
Volume: 23
Pages: 110-120
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research