2016 Fiscal Year Research-status Report
瀬戸内海における船底防汚剤および陸地由来の複合農薬汚染による水産食品安全性の評価
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16KT0149
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
佐久川 弘 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (80263630)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹田 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (00236465)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 農薬 / 瀬戸内海 / 水産食品の安全性 / 物質収支 / 船底防汚剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
広島大学生物生産学部練習船の豊潮丸航海(2016年7月および8月)において瀬戸内海(広島湾、安芸灘、燧灘、播磨灘、大阪湾、紀伊水道)の表層、底層海水をニスキン採水器で採取した。CTD、水中光量子、GPS、気象データ等は船の観測システムから得た。海底堆積物はスミスマッキンタイヤ採泥器により、プランクトン試料はプランクトンネットを用いて、魚類等の海洋生物は釣り竿等でそれぞれ採取した。また食用魚類は、漁師から購入・譲渡などの提供を受けた。 農薬の測定(実験1):準備研究で申請者が用いた方法(Balakrishnan et al. 2012; Kaonga et al. 2015a,2015b)でジウロン、イルガロール1051、フェニトロチオン、ダイアジノン、フェナリモル、シアナジン、イソプロチオラン、シメトリンの8種類の農薬の測定を行った。海水からは固相抽出カラムを用いて抽出し、堆積物およびプランクトン試料からは有機溶媒による抽出、生物試料からは生物体の一部もしくは全体をブレンダ―により粉砕した後有機溶媒による抽出を行った。農薬の分析は、高速液体クロマトグラフ-紫外可視分光検出器を用いて行った。生物試料中の農薬濃度の測定から生物濃縮係数を求めた。食用魚の食品としての安全性を、日本、米国、欧州の食品残留最大基準値をもとに評価を行った。 農薬以外の物質の測定(実験2):農薬以外の化学物質として、海洋汚染の代表的な物質である銅などの重金属を大阪湾堆積物の数点で測定し、農薬汚染と重金属汚染との相関の有無や生物濃縮係数を比較解析した。堆積物試料中の重金属は塩酸等で抽出した後に、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いて測定した。その他の物質として、海水中の溶存有機炭素濃度を全有機体炭素計で測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況は以下の通りである。 農薬の測定(実験1):瀬戸内海海水、堆積物、プランクトン、魚類等の海洋生物中の8種類の農薬の測定に関してはおおむね順調に進んでいる。高速液体クロマトグラフィーによる測定法の確立が完了し、全ての対象農薬について数ng/L以上の海水中濃度測定が可能になった。ただし、海洋生物中の農薬測定に関しては、魚類試料の採取や確保が十分でなかったので、やや計画より遅れている。平成29年度は、この課題に重点的に取り組む。 農薬以外の物質の測定(実験2):銅などの重金属汚染と農薬汚染の関連性を探る研究については、計画よりやや遅れている。堆積物試料の採取は順調であったが、ICP-AES装置の不具合が発生したので、重金属濃度の測定が遅れている。平成29年度は、この課題に重点的に取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
農薬の測定(実験1):平成28年度と同様な方法を用いて海水、堆積物、プランクトン、生物試料中の農薬の測定を行う。特に、生物試料中の農薬濃度の測定から、食用魚等の食品としての安全性を、日本、米国、欧州の食品残留最大基準値をもとに評価を行う。また平成29年度は大阪湾の海底堆積物の柱状試料を採取し、5㎝間隔のコア―に切断した後に農薬を測定し、過去数十年間の農薬汚染の変遷を調査する。また、底泥から水中への再溶解や再懸濁の有無を調べるために、底泥直上の底層水を採取し農薬の鉛直分布や移動の過程を明らかにする。 農薬以外の物質の測定(実験2):平成28年度に引き続き、海洋汚染の代表的な物質である銅などの重金属を大阪湾で同様な方法で測定し、農薬汚染と重金属汚染との相関の有無や生物濃縮係数を比較解析する。その他の物質として、海水中の溶存有機炭素濃度を全有機炭素計で測定する。堆積物中の有機炭素濃度はC,H,Nコーダーで測定する。 農薬の物質収支、変遷、将来予測(実験3):瀬戸内海の海水、堆積物、プランクトン、海洋生物の農薬濃度、河川水中濃度、降雨中濃度、各府県の農地等での農薬使用量、船底塗料の出荷量や防汚剤の含有量、船舶航行数などの観測、実験、行政データを入手・解析し、過去20年間の農薬の物質収支の変遷を明らかにする。近年の農薬使用量や出荷量の見通しなどをもとに農薬汚染の推移に関する将来予測を行う。また、海域による農薬汚染の進行度の評価を行い、瀬戸内海全域にわたる汚染の分布を明らかにする。
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Causes of Carryover |
海洋生物中の農薬測定に関しては、魚類試料の採取や確保が十分でなかったので、やや計画より遅れている。また、銅などの重金属汚染と農薬汚染の関連性を探る研究については、計画よりやや遅れている。堆積物試料の採取は順調であったが、ICP-AES装置の不具合が発生したので、重金属濃度の測定が遅れている。これらの研究の遅れにより次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度と同様な方法を用いて海水、堆積物、プランクトン、生物試料中の農薬の測定を行う。特に、生物試料中の農薬濃度の測定から、食用魚等の食品としての安全性を、日本、米国、欧州の食品残留最大基準値をもとに評価を行う。また、海洋汚染の代表的な物質である銅などの重金属を大阪湾で同様な方法で測定し、農薬汚染と重金属汚染との相関の有無や生物濃縮係数を比較解析する。 実験1および実験2に関して、試薬類や有機溶媒等の消耗品費を平成29年度の予算の重点項目として計上する。
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Research Products
(4 results)