2017 Fiscal Year Research-status Report
銅錯体における光励起ダイナミクスの反応機構及び制御法の解明
Project/Area Number |
16KT0165
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
東 雅大 琉球大学, 理学部, 助教 (20611479)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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Keywords | ビスジイミン銅(I)錯体 / 光励起ダイナミクス / 理論解析 / Au3錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ビスジイミン銅(I)錯体[Cu(dmphen)2]+ (dmphen=2,9-dimethyl-1,10,phenanthroline)の励起状態のポテンシャル面の解析を行った。このビスジイミン銅(I)錯体の励起状態のうち、可視領域に大きな吸光係数を持ち、光増感剤として利用されるのは第三励起状態S3である。このS3状態へ光励起すると、内部転換・項間交差を経て、三重項励起状態T1へ到達し、再び基底状態S0に緩和することが知られているが、その途中の分子 論的機構はよく分かっていない。そこで、2つの配位子がなす角が90度で銅と配位子間の距離が等しくD2d対称性を持つS0状態の安定構造からS3状態に励起した際に、どのような状態や構造変化を経て、T1状態へ到達するかポテンシャル面を解析した。 まず、励起状態ではD2dからC2vやC2へと2つの配位子の対称性を崩した方が安定となった。また、S0状態の安定構造付近のC2vの対称性でS3/S4、S3/S2、S2/S1のエネルギーの順でポテンシャル面の最小エネルギー交差点が見つかり、S3からS1まで緩和がスムーズに起きると考えられる。さらに、S1の安定構造に緩和すると、T1~T4状態との最小エネルギー交差点はエネルギーがより高くなるため、三重項状態への項間交差は起こり辛いと考えられる。これらの結果は、過去の理化学研究所の田原グループの実験結果と一致するものである。 また、類似の光励起ダイナミクスとして、Au3錯体のポテンシャル面の解析も進めている。Au3錯体は基底状態ではAu3つが折れ曲がり緩く結合した状態だが、光励起によりAu3つが直線状になり、また強く結合することが知られていが、その途中のメカニズムはよく分かっていない。そこで、基底状態と励起状態のAu3錯体のポテンシャル面の解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はビスジイミン銅(I)錯体の一重項のS0~S3状態と三重項のT1~T4状態のポテンシャル面の解析を行った。当初の予定通り、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、ポテンシャル面の情報に基づいて、内部転換・項間交差を考慮した光励起ダイナミクスの分子動力学シミュレーションを行う予定である。第三励起状態S3からの緩和ダイナミクスの経路と寿命を追跡し、錯体の構造や溶媒和、非断熱・スピン軌道カップリングを解析して状態間遷移が起きるメカニズムを解明する。
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Causes of Carryover |
今年度は、学会での研究成果発表のために旅費40万円を計上していたが、都合がつかず約30万円の残額が生じた。この残額は、来年度にファイルサーバ等の物品購入に使う予定である。
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Research Products
(12 results)